桃井かおりは、なぜインディーズ映画に挑戦するのか?『火 Hee』 しゃベルシネマ【第56回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

2006年公開の『SAYURI』以降、拠点をロサンゼルスに移し世界で活躍する女優・桃井かおりさん。
彼女の長編監督第2作が、いよいよ日本で公開となりました。
そこで今回の「しゃベルシネマ」では、桃井かおり監督最新作『火 Hee』の魅力を掘り起こします。

圧倒的な存在感で、ひとりの女性の確かな「生」を描き出す。

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私は仕事柄、年間400本以上の映画を観ます。
来る日も来る日も映画を見続ける…となると、意外と重要になってくるのが、その日観る作品のチョイス。
人間というものは、贅沢な生き物ですよね。
例えば食事ひとつ取っても、毎日和食ばかり食べているとコッテリとした中華が食べたくなったり、オーガニックフードにこだわった食生活を送っているのに、突然、ビールにピザ!といったジャンクなものに食指が動いたり。

それと同じように映画を観る時も、1日3本エンターテインメント超大作を観ると、たまには情緒のあるアート系の作品に触れたくなったり、いわゆるメジャー作品が続くとインディペンデント映画の刺激を求めたりするものなんですよ。
そこへいくとこの映画は、私にとってはパンクロックそのものでした!

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幼い頃に自宅の火災で両親を亡くした彼女は、学校では壮絶なイジメを受ける。
成人してからも、結婚しても夫の浮気がきっかけで離婚。

その後アメリカに渡り、娼婦に身を落とし、借金の返済に明け暮れる日々を送っていた。
そんな彼女の生い立ちを聞くうちに、女性が過去に関係した男たちに自分自身を重ね合わせ、次第に話に引き込まれていく精神科医の男。

彼女の話はさらにエスカレートし、やがて思いもよらない方向へと向かっていく…。

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放火を犯した娼婦が精神科医との対話を通じて、その生涯を独白する。
芥川賞作家・中村文則による短編小説 「火」をサスペンスフルに描いたのが『火 Hee』。

手がけたのは、2006年公開の『SAYURI』以降、拠点をロサンゼルスに移し世界で活躍する女優・桃井かおり。
自ら監督・脚本・主演を務めた本作は、今年2月のベルリン国際映画祭フォーラム部門でワールド・プレミア上映され、その圧倒的な迫力は観客を魅了。
その後も各国の映画祭から熱狂的オファーが絶えず、喝采を浴び続けている作品です。

とにかく圧巻なのは、主演・桃井かおりの存在感。
エキセントリックで常軌を逸した演技は終始観る者を引きつけ、何が現実で何が妄想なのか、翻弄されること必至ですよ。

映画制作と幸せな時間の関係性

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この映画を観るのと時期を同じく、映画の撮影風景を追ったメイキング「Hee and She 映画『火 Hee』を作った日々」も拝見しました。
このメイキングが、これまた興味深かった!
低予算のインディーズ映画ゆえ、ロサンゼルスの桃井さんの自宅で撮影を敢行。
出演者の衣装もスタイリストではなく桃井さんが自らセレクトし、その日の撮影が終了するとキッチンに立ち、スタッフに食事をふるまう…という日々。
10日間という日数で撮影するのは非常にタイトで、撮影が進むごとに現場には特有の緊張感が生まれます。
そんな中、日本語のセリフが分からない外国人スタッフとコミュニケーションを取りながら、ひとつひとつのシーンを積み上げていく。

そこには“映画づくり”という、豊かで幸せな時間が映し出されていました。
「映画人がやるべきことは、常にチャレンジすること」と話す桃井さんに、大きく頷く外国人スタッフたち。
同じ志を持つ者たちが作り上げた映画『火 Hee』は、とてもチャレンジングで前衛的。
映画が本来持つべき自由奔放ささえ感じられます。

観たことがないような映画が観てみたい!

そんな衝動にかられたあなたに、是非オススメしたい映画です。

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2016年8月20日からシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督・脚本・出演:桃井かおり
原作:中村文則
製作総指揮:奥山和由
©YOSHIMOTO KOGYO、チームオクヤマ
公式サイト http://hee-movie.com/

八雲さんキャプション