「ジカ熱」対策の決め手は蚊の遺伝子操作?! 【ひでたけのやじうま好奇心】

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連日のリオデジャネイロオリンピックでの熱戦で、開催までやんやと報じられていた「ジカ熱問題」はどこへやら。

しかしこの問題は終わっていません。
リオ市保健当局は、開催までの半年に580万カ所もの検査を実施して、蚊の繁殖を防ぐために定期的に消毒などの作業を行いました。
大会期間中の現在も、水たまりなどを監視して警戒を続けています。

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実は、「蚊への対策」は、日本、アメリカ、ヨーロッパと、これほど各国が競って取り組んでいる科学分野はなかなかありません。
それもそのはず、蚊はいまだに世界で年間72万人もの命を奪う、人類で最も恐ろしい生き物とされているからです。
いまや、ジカ熱、マラリア、デング熱など様々な感染症を媒介する蚊に対して、遺伝子レベルのハイテク対策が進められているという、その最前線の研究についてお話ししたいと思います。

その駆除の歴史をさかのぼると、まずはアメリカが先んじていました。
シラミの駆除のために開発されたDDTという殺虫剤が、蚊に抜群の効き目があることが発見されたのです。
ある程度の年齢の方ならご存知のことでしょう。

マッカーサーも兵士を指揮する上で苦しんだのがマラリア対策。
兵力をどんどん奪われ苦戦していたのですが、DDTの効果を発見したことで、兵士や戦地で積極的に使用。
そして、アメリカを中心に、第2次世界大戦から1960年代までDDTを世界中に散布することになります。
結果、高い殺虫力によってマラリアの患者が激減したのです。

ところが、この薬が動物やヒトの体内に蓄積するという有害性が問題に。
日本でも1971年に使用禁止になっています。

しかも驚くべき事実に、殺虫剤でも生き残った蚊の子孫は、薬剤に対する抵抗性を身に付けて、100倍の濃度でも駆除できないこともあります。
DDTについても同様で、マラリアは撲滅できませんでした。

そこで、放射線照射や遺伝子組み換え、ゲノム解析の技術で、効果的に蚊を退治する試みにシフトしてきました。
つまり、「不妊化した蚊を放つ」という方法なんですが、最初は蚊ではなく、ハエから始まっています。

日本でも、1970~90年代に沖縄県で、ゴーヤーやキュウリ、マンゴーやパパイヤなどの野菜や果実の害虫の「ミバエ」を駆除する手段として使われて、根絶に成功しました。
当時、このハエの本州への上陸を許さないために、沖縄から本州への持ち込みは禁止。
沖縄にとっては本土に売ったり観光のお土産にしたりできれば有利なのに、観光資源や経済資源をみすみす逃していたことになり、根絶が悲願だったのです。

その根絶の仕組みは・・・
オスのハエに放射線を当てて精子を破壊。
この不妊虫を放し続けると、交尾したメスは卵を生めなくなるというもの。
1993年に根絶したのですが、放したハエは530億匹、かかった費用は90億円。
現在も、1億匹を作れる工場があり、不妊のハエを飼い続けて、必要に応じて放ち、侵入の警戒を行っているそうです。

これと同じ方法で「蚊」にも放射線を当てて不妊化させようと、その技術の開発は国際原子力機関(IAEA)も支援していて、開発が続いています。

さらに一歩進んだ方法が、6年前から始まりました。
オックスフォード大学とバイオテクノロジー企業の「オキシテック」が、遺伝子組み換え技術で不妊化したオスのネッタイシマカを作り出しました。
ネッタイシマカはデング熱やジカ熱を媒介する蚊です。

この遺伝子組み換えされたオスと野生のメスが交配して生まれた蚊は、成虫になる前に死ぬように遺伝子がプログラムされているというものです。

その結果はどうか?
2010年にカリブ海のイギリス領ケイマン諸島で、330万匹放つ実験で、蚊の数が5分の1に減少。
また、ブラジル政府の承認を得て、地方都市でこの遺伝子組み換えの蚊を数百万匹放ったところ、幼虫が82%減ったという報告がありました。

ただし「遺伝子組み換え」については、自然界への影響が未知ということもあって、すぐに手を挙げて取り入れるという国が、さほど多いわけではない。いまはまだ開発途上といったところです。

最新の「蚊の退治法」として、注目されている方法があります。
「マラリア原虫を媒介しない蚊を開発する」という方法で、日本でも自治医科大学の山本大介助教らが研究しています。

マラリア原虫は蚊の体内に入り込み、そこで増殖する。
そしてその原虫がヒトを刺す時に移動して、刺された人がマラリアに感染するという仕組みです。
現在、マウスでの実験でマラリア感染がほとんど起こらないという結果になり、その研究の完成が期待されています。

さて、相手が蚊だけにその研究が大変なのは想像に難くありません。
たとえば、蚊のいる部屋でどんな風に研究を行っているのか?
聞きましたら・・・
30センチ四方の立方体の箱に200匹、300匹の蚊を放ち、常に26~27度という高い気温で生かしておく。
そして研究員は決して刺されないようにする。また、1匹も逃さないようにするのは言う間でもありません。

ではその蚊をどうやって採取するのか?研究者は様々な方法で蚊を捕えます。
たとえば、発展途上国の藪や山の中に入っていき、炭酸の固体である「ドライアイス」を設置。
炭酸ガスに寄ってくる蚊の性質を生かして、せっせと捕獲します。

蚊のオスが好む音は「ラ」で、余談ですが「ラ」は世界中の赤ちゃんがオギャーと泣く産声の声だと言われています。
このラの音を蚊がぐるぐると飛び回る、通称「蚊柱」(かばしら)が立ちそうな場所において、蚊を採取する方法があります。

また、屋外の蚊帳に人が入っておとりとなって、その匂いにつられてやってきた蚊を蚊帳の外側で別の研究員がストローの様な「吸虫管」で吸い取って捕まえる方法も。
蚊帳の中の人は刺されませんが、ただ囮になるわけですから人道的な問題も抱えています。

~というように、研究には苦労が絶えない。
とはいえ、世界中で今も蚊の撲滅法についての研究は続いています。

8月16日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

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