アナウンサー直伝 話し上手になる話題の見つけ方

By -  公開:  更新:

「メディアリテラシー」では、フリーアナウンサー柿崎元子が、メディアとコミュニケーションを中心とするコラムを掲載している。今回は、「話し上手になる話題の見つけ方」について解説する。

アナウンサー直伝 話し上手になる話題の見つけ方
【会話の出だしは何を話す?】

2018年の今年は、季節の転換が早いと感じた方が多いのではないでしょうか。「うっとおしい梅雨が来たな…」と思ったらあっという間に30度越え、「これはしんどいぞー」と覚悟を決めたらスッと涼しい風が吹き、「もう秋?」といった感じです。会話の出だしでは、「毎日暑いですね」「雨の日が多いですね」などと、天気の話題から始めることが多いですが、今年は異常気象もあって意図的に話題に盛り込んだ方もいらっしゃるでしょう。天気の話は、老若男女問わず話せる話題です。

話す相手が知り合いならば、何気なく口をついて出る話題も、知らない人にはなかなか話しかけにくいですね。今回は話題の見つけ方をご紹介します。

アナウンサー直伝 話し上手になる話題の見つけ方
【知らない人には天気】

先日、300人規模のイベントで司会を担当しました。フリーアナウンサーの私には、企業の式典やセミナー、シンポジウムなど様々な進行の仕事が舞い込みますが、そのほとんどが、事前に何度もお会いし綿密に計画を立てるようなものではなく、当日か数日前に1度だけ担当者にお会いして「あとはよろしくお願いします。」ということが多い傾向があります。つまり、「以前からよく知っている人」より「初めて会う人」とのお仕事が多いのです。常に知らない人と話すのが仕事と言えるかもしれません。

どんな人だろう、何を話したらいいかな、とやはり少し心配になりますので、そんなときには準備としてネタ探しをします。
まずは鉄板の話題、天気。「きょうの天気は…くもりだけど雨は降らないみたい」「ちょっと蒸し暑いかな」「折りたたみ傘を持っている人もいる」「気温の割にはジャケット姿が目につく…」などと自分の頭にメモ書きします。時間があれば最近の天気の傾向や、流行のファッションなども少し調べておきます。今回のイベントでは、運営に携わる人、協賛企業の方、場所を提供しているお店の方、イベントのゲストなどたくさんの「知らない人」とお話しする可能性がありました。


【相手の状況に合わせて話す】

現地に到着した私は、まず運営責任者を紹介されました。その方はかなり緊張された面持ちで現れ、よろしくお願いしますと言いながら目はあっちこっちを見渡すような視線を送り、ソワソワと所在無げな動きをされていました。「本番まであと2時間、絶対に失敗できない」という雰囲気が伝わってきました。

いま思えばここで、「きょうは天気が安定していますから人手は多そうですね」とか、「蒸し暑いですから、飲み物が売れそうですね」などの話から始めれば、少しほっとしたかもしれませんが、当の私はと言うと「早速ですが、確認したいことがいくつかありまして…」と実務モード。もしかしたら「うわ、何か間違いでもあったかな?」と驚かせたかもしれません。

いきなりの実務モードはダイレクト過ぎました。相手の状態に合わせて話ができれば会話の展開もよくなりますし、何より初対面の人と関係性を作るには、細かい配慮が必要なのです。

アナウンサー直伝 話し上手になる話題の見つけ方
【材料は話のなかにある】

その後、本番までの台本の手直しをしていた私のもとへ、若い男性が近づいてきました。「司会の方ですか。きょうプレゼンする者です」―なかなかのイケメン、さわやかな笑顔、そして響きのよい声。第一印象バッチリです。
相互に自己紹介の後、私は「少し蒸し暑いですが、スーツでは暑くないですか?」と問いかけました。すると、「そうですね、季節の変わり目なので何を着るか難しいですね。これから300人集まるともっと熱気が…あ、でも少し暑いぐらいの方が、気持ちは盛り上がりますし、飲み物も進みますよね」という答え。

さて、これを受けて皆さんはどう話を展開するでしょうか。「季節の変わり目」と言ったので、スーツの生地(薄手か厚手か)でもいいですし、スーツから離れてポロシャツが似合いそうと洋服の話を展開してもいいでしょう。また「300人集まると熱気が…」から派生して、300人は多いですか、どんな人が集まりますか、あるいは、人が集まると話が聞こえにくいですね、熱気があると暑くなりますね、などいろいろ考えられます。
その他にも「気持ちが盛り上がる」→ 野球やスポーツの話、「飲み物が進む」→ 冷たいものは何がおいしいか等々、たくさん話が展開していく可能性があります。

初めて人と話す際に、何を話していいか分からないとよく言われますが、原因のひとつは、自分が何を話すかに気を取られて、相手の話を聴くのを忘れてしまうことにあります。つまり話をしっかり聴いていれば、相手の発する言葉のなかにヒントを見出すことができるのです。相手の話をベースにキャッチボールをし、やり取りが多ければ多いほど話が弾む。相手は徐々に心を開いてくれて信頼関係も出来てくる。結果、楽しくお話できたことになります。


【観察と変化】

天気の話をしても、そのあと話題が続かないと感じている方には、物事を観察することをお勧めしています。天気の話から着ているものに話を結びつけることは容易だと思います。相手がどんなものを着ているか、色合いや形、素材はどうか、そんな他愛のない指摘から、思いがけない話になることもあります。男性は、ネクタイにストーリーが潜んでいることがありますので試してみてください。

観察は普段から習慣化することが大事です。頭の引き出しに入れておくのです。そして、話の流れに応じて引き出しからネタを引っ張り出す。慣れてくれば、これで話はどんどん展開していきます。そして「観察」と同時に有効なのは、「変化」です。冒頭で挙げた、今年の夏や気温の話は天気の移り変わりで、まさに変化です。以前はどうだったか、現在と比較すると会話が展開しやすくなります。

変化を見逃さない。これが大事なポイントです。話し上手のための会話のコツは「観察」と「変化」。是非覚えておいてください。

柿崎元子 メディアリテラシー

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE

Page top