報道部畑中デスクの独り言

自動車とIT、巨人同士の連携の狙いは?

「報道部畑中デスクの独り言」(第89回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、10月4日に行われたトヨタ自動車・ソフトバンクの提携記者会見について解説する。

記者会見には多くの報道陣が詰めかけた

「トヨタ自動車とソフトバンクが戦略的提携」、10月4日は自動車業界のみならず日本経済にも大きな衝撃をもたらしました。小欄では改めてこの提携劇についてお話ししたいと思います。

私もこの日、会見場のある東京都内のホテルに向かいました。記者会見は両社の副社長による記者会見と、豊田章男・孫正義両社長のトークセッションという二段構成。トークセッションではざっくばらんなトークが繰り広げられました。

握手を交わすトヨタ・豊田章男社長(右)とソフトバンク・孫正義社長(左)

「モビリティ世界一のトヨタさんと、AIに力を入れているソフトバンク。両社が提携することによって新しい時代のモビリティが生まれる」(孫社長)

「ソフトバンクにはもっと楽しいモビリティ社会を生み出そうと戦い続けている多くの仲間がいる。今回の両社の提携はこうした仲間を巻き込んで、まだ見ぬ未来のモビリティ社会を現実のものにする提携だ」(豊田社長)

提携はトヨタの方から持ちかけられ、若手のワーキングチームで検討された上で、実現に至ったと言います。また、20年前に孫社長がトヨタにシステム導入を持ちかけたものの、「準備ができていなかった」として、課長時代の豊田社長が断りに行ったエピソードも披歴されました。「若気の至りということで、孫さんには大目に見てもらったと思い、感謝している」と豊田社長は話します。

トヨタが今年1月に出展した電気自動車「℮-Pallete」(6月26日撮影)

「自動車技術とAI技術の融合」…今回の提携のポイントの1つでもあります。両社の共同出資で新会社「モネ・テクノロジーズ」を設立。具体的にはトヨタが今年1月、アメリカ・ラスベガスで出展した電気自動車「℮-Palette(イー・パレット)」、この「動くショーケース」のような車両をどう活用していくかということになります。

会見では℮ -Pallete活用のアイデアも示された

「今回の提携の最終的な姿はイー・パレットを実用化すること」(友山茂樹副社長)

会見では移動コンビニ、フードデリバリー、移動オフィス、病院までの移動中に検診もできる医療サービスといったアイデアも示されていました。2023年の商品化を目指しているということです。

CASEは次世代自動車のキーワードとして定着している(中央はトヨタ・豊田章男社長)

小欄では何度かお伝えしていますが、次世代自動車には「CASE」というキーワードがあります。C=Connected(つながるクルマ)、A=Autonomous(自動運転)、S=Sharing(カーシェアリング)、E=Electric(電動化)です。

自動車メーカーが自動車をつくって売るだけでは立ちいかない時代になりつつあります。次世代の自動車開発は世界の自動車メーカーでしのぎを削っていますが、カギを握るのは、運転状況や道路の状況など、様々なケースを想定した膨大な「ビッグデータ」。これに車両を含めたシステムの骨格=プラットフォームの世界標準を押さえた者が勝つといわれています。

したがって、自動車業界とIT業界の覇権争いとも言われてきました。アメリカの自動車(GM、フォード)とIT企業(グーグル、アップル、アマゾン)の関係はその典型と言えます。

ソフトバンク・孫正義社長は「群戦略」をアピール

ソフトバンクでまず思い浮かぶのは携帯電話・通信事業であり、プロ野球の球団でも知られていますが、そのようなイメージですと、本質を見誤ることになります。孫社長は「群戦略」と称し、次世代自動車につながる企業にくまなく投資をしているのです。
記者会見のトークセッションでソフトバンクの孫正義社長はモニターを使って、その群戦略を紹介していました。そこには次世代自動車技術のカギを握る新興企業がズラリと並びます。下記はその一部です。

ライドシェア(自動車を相乗りする事業)
ウーバー(アメリカ)、滴滴出行(ディディチューシン 中国)、グラブ(シンガポール)、オラ(インド)

自動運転技術
GMクルーズ(アメリカ)

画像認識・処理・セキュリティ(自動運転には欠かせない技術)
エヌビディア(アメリカ)、ナウト(アメリカ)、アーム(イギリス)

リース・レンタル
ゲットアラウンド(アメリカ)

地図(自動運転には欠かせない)
マップボックス(アメリカ)

保険(AIにより保険と自動車がつながっていく)
衆安保険(ジョンアン 中国)

これに、中国では「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)と呼ばれる3大IT企業がありますが、その一角で、自動車分野への進出を狙うアリババの筆頭株主はソフトバンクです。こうした企業とファミリーを形成しており、表現は変ですが、ソフトバンクはもはや「クルマをつくらない自動車会社」と言っていいかもしれません。

「自動運転をやって行こうと思っている会社のドアを開けたら、必ず孫さんが前に座っておられた」…豊田社長の発言です。次世代自動車技術のカギを握る自動車業界とIT業界の覇権争い、トヨタも急ピッチで異業種との連携を進めていますが、さすがのトヨタもこのようなソフトバンクを敵とするのは得策ではないと判断したのでしょう。むしろ手を携えることで、ともにそのネットワークを広げるという選択をしたと思われます。

会見では両社長のトークセッションが展開された

また、ソフトバンクは中国企業との接点が多いのも特徴です。トヨタは自動車分野で国内市場50%近くのシェアを持ち、世界でも1、2を争う大企業ですが、中国市場はVW=フォルクスワーゲン、GM=ゼネラル・モーターズに水をあけられているだけでなく、日産自動車の後塵を拝している状況です。

中国は世界最大の自動車市場で、次世代自動車開発もIT企業を中心に猛烈なスピードで進んでいます。政治システムや情報管理の部分でいくつかの課題を残すものの、次世代自動車市場のカギを握ると言っても過言ではありません。トヨタがソフトバンクと組むことで中国のネットワークをもっと広げていきたい…想像に難くありません。

一方、ソフトバンクはトヨタという世界有数の自動車メーカーと手を組むことで、ファミリーの基盤を盤石にしたい狙いがあるのは間違いないでしょう。今回の提携は日本における時価総額1位と2位、いわば「自動車の巨人」と「ITの巨人」が組むことで、未来の自動車市場での生き残り、世界の覇権を目指すというのも見逃せないポイントだと思います。

トヨタとソフトバンク、両社のビジョンは同じだというが…

ただ、気になる部分もいくつかあります。ソフトバンクはアメリカのGMクルーズとも手を組んでいます。一方、トヨタは携帯電話ではソフトバンクのライバルであるau=KDDIの株主であり、自動車の通信事業でも密接な関係にあります。このあたりのすみ分けはどうなるのか。

さらに懸念されるのが両社の社風、今回の記者会見はほぼソフトバンク関係者の仕切りでした。トヨタでは紙ベースで配られるプレスリリースも、今回はウェブで公開されるなど、やり方にはそれぞれの個性があります。トヨタ関係者は「今回はソフトバンクさんにお任せすることにした」と話していましたが、まずは「お手並み拝見」という雰囲気でもありました。

「ビジョンは同じ 、カルチャーは違う」と話す豊田社長、果たしてこちらはうまく融合していくのか。20年前、幻に終わった提携の実現に「まじか」と思ったと言う孫社長、「いつもの笑顔で優しく迎えていただいた」と豊田社長は話しますが、数々の企業の出資を果たした孫社長は相当したたかな人物だと思います。提携の中ではガチンコもあるかもしれません。今回の提携で次世代自動車をめぐる開発競争が、また一段と慌ただしくなるのは間違いないところです。

このように気になることはたくさんあったのですが、今回の会見では豊田社長と孫社長はトークセッションのやり取りに終始、メディアが最も望んでいた両社長への質問の機会が与えられなかったのは残念でした。(了)

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