報道部畑中デスクの独り言

検査不正、人手不足…“帳尻合わせ”の危うさ

「報道部畑中デスクの独り言」(第88回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、自動車業界で相次ぐ不正とともに、国の対策と現場で生じる認識の差について解説する。

日産グローバル本社ギャラリー

「車両製造工場において計画通りの生産出荷が優先され、完成検査が軽視されていた」
「業務量が多く再測定を行う余裕がなかった」
「再測定すると車両の納期が遅れ、営業に迷惑をかけると考えた」…。

自動車業界では、燃費計測や完成前検査をめぐる不正が相次いでいます。これは当該各社の報告書に書かれていた文言です。検査不正は消費者への背信行為であり、もちろん許されるものではありませんが、報告書の結論や従業員の証言からはモノづくりの危機というよりも、会社の厳しいノルマに対する現場へのしわ寄せ、悲鳴などが感じられます。

日産の詳細調査結果

好調な業績の影で、背景には理念なき無謀な拡大戦略、「選択と集中」を欠いた安易な人員削減や人手不足があるのではないかと思えてなりません。疲弊した現場ではいつしかノルマ達成の「帳尻合わせ」が主目的と化し、「どうせ変わらないんだから」と、現場と管理者のコミュニケーションが希薄となる…それがいつか製品という、目に見える形で現れることはないか懸念されます。

日産自動車の山内康裕CCOは、会見でこのように話していました。

「現場とマネジメントのかい離、その壁は確かにあると思う。日本のメーカーは共通して言えるかもしれないが、現場の力が非常に強い。マネジメント層はずっと工場にいるわけではなく、異動して行く人と、現場を支えている人との間で話がしづらい。現場に任せておいた方がいいというような壁、現場から見れば『これは言ってもどうせわかってもらえないのではないか』という壁が、実際にあると認めざるを得ない。現場に遠慮なく入りこむことを通じて、壁を低くし、最終的に取り払うことをしなくてはいけない」

これは経営側の見方ですが、ある意味、現場とマネジメントのかい離は組織の宿命と言えるかもしれません。
思えば、こんな“帳尻合わせ”、最近いたる所でみられます。

検査不正に関する記者会見で頭を下げる日産幹部(中央が山内康裕CCO 9月26日撮影)

先日、久しぶりに家族と箱根に行く機会がありました。マイナスイオンをたくさん浴びて、心地よいひとときを過ごすことができました。箱根も近年の例に漏れず、外国人観光客が多く訪れます。
私が宿泊した旅館でも外国人ばかりで、「なんとまあ」…家族と目を見合わせてしまいました。多くの人が訪れることで観光地が、そして日本全国が活性化するのはもちろん悪いことではありません。ただ、最近、こうした光景も目にするのです。

運転手)「整理券を取って下さい」
乗客)「いや、連れと一緒なので1枚でまとめて…」
運転手)「1枚ずつ取って下さい!」

バスの運転手の不機嫌な声が車内に響きます。3年前、箱根山で噴火警戒レベルが引き上げられ、取材でバスに乗り込んだ時も、代金を払わずにバスを出ようとした外国人に対し、運転手が「払って下さい!」と声を荒らげるのを目にしました。

こうしたギスギスした場面を見るのはあまり気持ちのいいものではなく、観光地ではこうしたことが多いのではないかと心配してしまいます。一方で、こうした出来事の裏に「観光立国」を目指す国の政策への「しわ寄せ」も感じます。

日産会見終了から2時間あまり スズキも燃費・排ガス不正に関する記者会見を行った(9月26日撮影)

政府は観光立国基本計画のなかで、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、訪日外国人旅行者数4,000万人、日本人の国内旅行消費額21兆円を達成する目標を掲げました。観光庁は実現に向け、「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策」として、2018年度の予算に96億円を計上しています。

そこには「多言語音声翻訳システムの普及等の多言語対応の一層の促進」「無料公衆無線LAN環境の一層の充実」など、ストレスフリーな受入環境の整備に向け、さらにきめ細やかな支援を行うとあります。目指すのはオリンピックの華やかな国際舞台ですが、「緊急」という表現が示す通り、果たしてその態勢に無理はないのでしょうか?

ギスギスしたやり取りは対策が行き届かないゆえの「過渡期」の出来事と言えなくもありませんが、私には現場が疲弊しているようにも見えます。現場を理解しない人々が、表面的な数字しか見ていない結果ではないかと思えるのです。

頭を下げるスズキ幹部(中央が鈴木俊宏社長)

先日の台風21号では、関西空港やその連絡橋が大きな被害を受けましたが、連絡する鉄道の運転再開は前倒しになりました。復旧に向けた作業員の頑張りには頭が下がる思いですが、運営元の関西エアポートがもう少し、安全性を確保しつつ再開する予定だったところ、外国人旅行客への悪影響を危惧した官邸と大阪府が強いプレッシャーをかけたという指摘もあります。だとすれば、これも危うい“帳尻合わせ”と感じます。
http://www.1242.com/lf/articles/128004/?cat=politics_economy&pg=cozy

自民党新役員による初役員会に臨む(左端から)森山裕国対委員長、甘利明選対委員長、岸田文雄政調会長、二階俊博幹事長、安倍晋三総裁(首相)、加藤勝信総務会長ら=2018年10月2日、東京・永田町の同党本部 写真提供:時事通信

翻って今週(10月2日)、第4次安倍内閣が発足しました。主なポイントは憲法改正、北朝鮮情勢、拉致問題などでした。一方で、経済はどうか…大臣起用の説明の際、「デフレ完全脱却」「中小事業者の生産性向上」という言葉はあったものの、これまでの「経済最優先」の旗印は影を潜めた印象です。

決して「アベノミクス」を否定するつもりはありませんが、政権は「足元のほころび」「帳尻合わせの危うさ」をどこまで認識しているのでしょうか。こうした認識を共有するのも今後の課題ではないかと思います。
ただ、それは総理や大臣が地方をめぐって、住民と握手するようなパフォーマンスではありません。そういうことのために各選挙区の国会議員(もちろん地方議員も)がいるのではないでしょうか。各党にはそうしたことを議論する組織もあるでしょう。安倍総理大臣は会見で次のように話していました。

「自民党には毎日様々な部会などでたくさんの議員が集まり、朝早くから活発な議論を交わしている。地味な世界ではあるが、いぶし銀の人材がたくさんいる」

ならば、経済指標のような数字だけではない、選良たちが肌で感じた地元の声をすくい取る…いまこそ必要なときではないかと思います。(了)

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