西武・辻監督がその原点とする球団

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「スポーツアナザーストーリー」は、9月30日にチームを10年ぶりのリーグ優勝に導いた、埼玉西武ライオンズ・辻発彦監督にまつわるエピソードを取り上げる。

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プロ野球 日本ハム対西武 西武の優勝が、決まりナインたちから胴上げされた辻発彦監督 故・森慎二コーチのユニホームも宙に=2018年9月30日 札幌ドーム 写真提供:産経新聞社

9月30日の試合前の時点でマジック1と、優勝に王手をかけていた西武。札幌ドームで日本ハムに敗れましたが、2位・ソフトバンクも敗れたため、10年ぶりのパ・リーグ制覇が決定。辻監督の体が宙に舞いました。くしくも10年前の胴上げも同じ札幌ドームで、負けて胴上げも同じ 。開幕8連勝から1度も首位を譲ることなく、9月に12連勝でラストスパート。終盤追い上げたソフトバンクを振り切り、栄冠にたどりつきました。

辻監督は、今年で就任2年目。現役時代に10回もリーグ優勝を経験し、うち7回が日本一。コーチ時代にも優勝を3回経験しています。監督としては初の胴上げでしたが、指揮官として宙に舞う喜びは、今回初めてのこと。

自分がプレーしていた頃、常勝軍団と呼ばれていた西武は、強力投手陣を擁し1点を守りぬく野球でしたが、22年ぶりに戻ってきた古巣の台所事情は苦しく、「投手力が不安なら打線が打つしかない。4点取られたら、5点以上取って勝つ」と、攻撃重視のチーム作りを目指しました。

今季46ホーマーと才能を大きく開花させた主砲・山川や、昨年デビュー以来、全試合でショートを守り、フルイニング出場を続けている源田、勝負強い打撃と脚で魅せる外崎などをレギュラーに抜擢。ほとんど生え抜きの日本人選手だけで打線を組み、9月終了時のチームホームラン数は191本。打率は2割7分3厘(いずれもリーグトップ)。

「個性を引き出すのがいちばん。チーム打撃なんて言わなくても、みんないろんなことを感じながら打席に立っている」。

細かいサインは出さず、選手の自主性を尊重し、指揮官自ら「獅子おどし打線」と名付けた強力打線を作り上げました。

多少リードされても、打線が反撃して逆転する野球は観ていて痛快で、主催試合の観客動員数は、実数発表となって以来過去最多の176万3,174人(1試合平均2万4,833人)を記録。メットライフドームの収容人員ギリギリの3万人を超えることも多く、チケットが完売になった試合は、主催71試合中、実に26試合を数えました。

「お客さんに喜んでもらえる野球」……その原点は、父・廣利さんでした。辻監督は佐賀出身で、子供の頃、西鉄ライオンズ(西武の前身・当時は福岡が本拠地)の大ファンだった廣利さんに連れられて、よく福岡の平和台球場まで試合を観に行ったそうです。

ライオンズの指揮官になったことを、誰よりも喜んでくれた廣利さんは、昨年の春季キャンプイン前日に他界……。辻監督は、実家に駆け付けたい思いをグッとこらえ、キャンプ初日を優先させました。「おやじ 、必ず優勝するから、見ていてくれ」と。

今年、辻監督が墓参りをしたときにあらためて思い返したのは、父親と試合を観たときの記憶でした。開幕前に「お客さんが帰らないチームにしよう」と選手たちに伝えた辻監督。その思いを、みごとに選手たちが形にしてくれました。

しかし、リーグ優勝はあくまで通過点。次の目標は、CS突破、そして2004年以来、14年ぶりの日本一です。ファンと最高の喜びを分かち合うために、辻監督の戦いは、これからが本番です。

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