初号機の思いを胸に「はやぶさ2一座」の挑戦

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「報道部畑中デスクの独り言」(第86回)では、小惑星探査機「はやぶさ2」の超小型探査ロボット「ミネルバ2」がリュウグウへの着陸・移動を確認したニュースに関して解説する。

初号機の思いを胸に「はやぶさ2一座」の挑戦

「ミネルバ2」着陸・移動中の撮影画像 左側は小惑星「リュウグウ」の表面 右の白い部分は太陽光 世界初の快挙だ!(JAXA提供)

2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」が日本時間の6月27日に小惑星「リュウグウ」の上空に到着。その後、リュウグウへの着陸に向けた準備が進められていますが、9月21日午後にはその“先遣隊”とも言える超小型探査ロボット「ミネルバ2」2機がはやぶさ2から分離に成功、その翌日、リュウグウへの着陸・移動も確認。移動時の画像も公開されました(画像は日本時間9月22日午前11時44分ごろのもの)。重力の小さい小惑星での機体移動・画像撮影は世界初です。

「小天体上の表面移動という新たな宇宙探査の手段を手に入れたこと、その技術の実現に『はやぶさ2』が貢献できたことを誇りに思う」(津田雄一プロジェクトマネージャ 以下、津田プロマネ)、「移動探査が成功して感無量。小惑星表面の至近距離から撮影された画像には感動した」(吉川真ミッションマネージャ)…プロジェクトに携わったJAXA=宇宙航空研究開発機構の担当者のコメントからは興奮の様子が伝わってきます。

これに先立つ21日にはミネルバ2分離成功を受けて神奈川県相模原市のJAXA宇宙科学研究所で記者会見が開かれました。
「我々にとっては大きな一歩、大きなハードルを一つ越えた。着陸に向けての大きな自信になった」…小惑星探査機「はやぶさ2」の責任者、津田プロマネは語ります。

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9月21日に開かれた記者会見の様子

 

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分離成功を記者会見で報告するJAXA・津田雄一プロジェクトマネージャ(中央)

ミネルバは「ローバ」の一種です。日本語では「移動探査ロボット」と訳され、地球外の天体の表面を移動しながら観測する機能を持ちます。しかし、火星探査車のような大きな惑星のものと違い、ミネルバ2には車輪はついていません。リュウグウの重力は地球の約8万分の1とされていますが、このような重力の極めて小さい小惑星では、摩擦力による駆動ができないためです。ミネルバ2は内蔵されたモーターが回転することで、飛び跳ねて移動します(ホップと言います)。1回のジャンプで移動できる距離は約15m。この間、惑星の表面を動きながら、写真を撮影するなど観測を進めていきます。

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記者会見で探査機「はやぶさ2」の動きを説明するJAXA・津田雄一プロジェクトマネージャ(左)

 

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ミネルバ2の分離を模型で説明するJAXA・久保田孝スポークスパーソン

ちなみにミネルバ2の大きさは直径18センチ(正確には円型ではなく正十六角形)高さは7センチ、重さは本体で1キロあまりです。例えるならピザLサイズの半分の直径で、それが5~6枚重ねた感じの大きさでしょうか。その中に太陽電池やモーター、コンピュータにカメラ、温度計も搭載されている、いわば日本の技術が凝縮されたロボットと言えます。そんなロボットが地球からやってきた…リュウグウから見ると、「不思議な“異星人”が来た」と思うかもしれません。

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ミネルバ2分離機構の模型 ミネルバ2は直径約18センチの正十六角形

 

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ミネルバ2分離機構の模型

初号機である「はやぶさ」が満身創痍の宇宙の旅であったことは誰もが知るところですが、実はこのはやぶさにはミネルバの初号機も搭載され、小惑星「イトカワ」に着陸する予定でした。しかし、はやぶさ本体の不具合に加えて、コマンドのミスなども重なり、ミネルバ初号機はイトカワに着陸することができず、“人工惑星”と化しました。今回の着陸はそのリベンジでもあったわけです。

分離する際の探査機「はやぶさ2」とリュウグウの距離はわずか55mほど。この距離になると、通信のタイムラグも相まって、仮に探査機が危険な状態になっても、地上からは「危ないから逃げろ」という指示ができなくなり、探査機がすべて自動で機能するモードになります。しかし、そこまでお膳立てをするのは人間の仕事。設定や計測を一つ間違えるだけで、コンピュータが誤った計算をして思わぬ加速をしたり、最悪ぶつかるようなことが起こる可能性があります。「設定に誤りがないように何重にもチェックをかけ、破られた場合でも次の防御、何重ものプロテクトをかけるが、すべて想定通りに動いた」と津田プロマネは話します。その上で「(初号機の時の)悔しさを現場で感じ取った者として、10年以上経ってここに居合わせて、正しく分離できたのは純粋にうれしかった」と感慨を語っていました。

初号機の思いを胸に「はやぶさ2一座」の挑戦

探査機「はやぶさ2」と小惑星リュウグウの模型

小惑星への着陸・移動・撮影という「世界初の偉業」を成し遂げたミネルバ2。リュウグウはボルダ―と呼ばれる無数の岩塊があることがわかっていますが、撮影された写真では様子の一端が垣間見えます。今後も写真などのデータが送信される予定です。ただ、ミネルバ2は「自在に動けるか」と言うと必ずしもそうではありません。まず、夜、太陽の陰になれば、太陽電池による発電ができず、その時間はお休み。一方で真昼も、あまりに煌々と太陽が照る状態だと、ミネルバ2も高温状態になってしまいます。パソコンやスマホと同じで、80度を超えると熱暴走しないように休止モードになります。ちょっと「気難し屋さん」ではありますが、活動時間が意外に短い中で、どれだけ画像や温度などのデータを獲得することができるか…ミネルバ2自体の正念場となります。

そして、来月3日にはドイツ・フランスによる小型着陸機「マスコット」の投下、来月下旬にはいよいよ本丸…はやぶさ2本体がリュウグウに着陸し、粒子の採取に挑む予定です。初号機の思いを胸に…「はやぶさ2一座」の挑戦は続きます。(了)

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