しゃベルシネマ

大杉漣が最期に問いかける、生きる意味

【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第486回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

「300の顔を持つ男」の異名を持つ俳優、大杉漣。映画やテレビドラマに欠かせない名脇役として、また時には主演俳優として、超大作から自主映画まで幅広く活躍した名優が急逝したとのニュースが今年2月に流れた時は、誰もがその死に驚き、そして悲しみに暮れたことでしょう。

そこで今回は、いま改めて観たい名優・大杉漣を特集します。


大杉漣、そのいぶし銀の魅力に迫る!

※写真はAmazonより

北野武が監督を務める“キタノ映画”の常連だった大杉漣ですが、初めてのタッグとなったのが『ソナチネ』(1993年)。大杉漣にとっても本作への出演が俳優としての大きな転機となり、演技派俳優として広く知られるようになりました。

とは言え、彼が演じたのは主役でもなければ主要キャストでもなく、やくざ事務所の電話番。出番もほとんどないような役どころでしたが、ヤミ金の取り立てシーンをすべてアドリブで演じたのが北野監督の目に留まり、脚本の書きかえで当初の予定より役が大きくなったとか。

この時、大杉漣はすでに40代。北野武という才能との出会いが、彼の俳優人生を大きく変えたといっても過言ではないでしょう。

※写真はAmazonより

室生犀星の同名幻想小説を石井岳龍監督が映画化した文芸ファンタジー・ロマンス。金魚が姿を変えた美少女と老作家の秘めたる禁断の恋を、シュールなタッチでユーモラスに綴っています。

公開当時は二階堂ふみのコケティッシュな魅力が話題となりましたが、70歳の老作家を演じた大杉漣の存在感も堂々たるものでした。“老いてもなお、男として現役!”と、フェロモンをムンムン放つ大杉漣…というのは、晩年に彼が演じた役どころからは想像がつかない方もいらっしゃるかもしれませんが、ふわっと浮世離れしたその雰囲気は、やはり彼だからこそ出せる“味”だったのではないでしょうか。

それにしても、本作で演じた老作家より若くして逝った現実を考えると、まだまだいろんな芝居を観たかったなぁ〜と、残念でなりません。


そして、大杉漣初プロデュース映画にして最後の主演作となるのが、10月6日から公開の『教誨師』。タイトルにもなっている“教誨師”とは、受刑者に対して道徳心の育成や心の救済につとめ、彼らが改心できるように導く人のこと。

死刑に立ち会う刑務官の姿を描いた『休暇』(2007年 門井肇監督)では脚本を担当し、『ランニング・オン・エンプティ』(2009年)ではメガホンを取った佐向大監督が、まだ企画段階の本作について大杉漣に話したことから始まったこのプロジェクトで、大杉は主演とエグゼクティブ・プロデューサーを務めており、残念ながらこれが遺作となりました。


大杉漣が演じるのは、死刑囚専門の教誨師である牧師・佐伯保。死刑囚に寄り添いながらも、彼らが安らかに死ねるように導くことが果たして正しいことなのかと葛藤し、自身の過去と対峙することで自らの人生も振り返っていくという役どころを、きめ細やかに体現しています。

教誨室という限られた空間の中で繰り広げられる会話劇は、時にユーモアを交えながらも緊迫感たっぷり。魂と魂のぶつかり合いからは、死の淵にいる者たちの強烈な“生”を感じずにはいられません。

人生は誰にとっても限りあるもの。その中で一瞬一瞬を全力で駆け抜けた俳優・大杉漣の姿が焼き付けられた作品です。

<作品情報>
ソナチネ
DVD&Blu-rayリリース
監督・脚本:北野武
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣 ほか

蜜のあわれ
DVD&Blu-rayリリース
監督:石井岳龍
原作:室生犀星「蜜のあわれ」
出演:二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、韓英恵、上田耕一、渋川清彦、高良健吾、永瀬正敏 ほか

教誨師
2018年10月6日から有楽町スバル座、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
監督・脚本:佐向大
エグゼクティブ・プロデューサー:大杉漣、狩野洋平、押田興将
出演:大杉漣、玉置玲央、烏丸せつこ、五頭岳夫、小川登、古舘寛治、光石研 ほか
©「教誨師」members
公式サイト http://kyoukaishi-movie.com/

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