8月12日は命日。ボーカリスト坂本九、初期のヒット曲。 歌謡曲ここがポイント!

歌謡曲 ここがポイント! チャッピー加藤(ヤンヤンハイスクール講師)

最近、ますます注目されている昭和歌謡。
この講座では、日本人として最低限覚えておきたい歌謡曲の基礎知識を、わかりやすく解説していきます。

前々回(永六輔作品)、前回(東京五輪時ヒット曲)と、偶然2回連続で坂本九を取り上げましたが、そういえばもうすぐ8月12日、九ちゃんの命日がやってきます。

8月27日(土)の『八木亜希子 LOVE & MELODY』では、「人生を変えたこの一曲〜あの夏を忘れない」と題して、坂本九の歌手人生を変えた『上を向いて歩こう』の「夏にまつわる秘話」を取り上げますが、その取材で、当時東芝レコード(東芝EMIの前身)でこの曲のディレクターを務めた草野浩二氏に直接お話を伺うことができました。

そのお話は番組で聴いていただくとして、草野氏は『上を向いて…』以外にも、日本の歌謡界に大きな足跡を残した方です。様々な仕事がありますが、今回は、草野氏が1960年代初期に手掛けた「初期の坂本九作品」について、ご本人に伺った秘話も交えて触れておきましょう。
驚くことに、日本の歌謡史を彩った様々な人物が登場します。

草野氏が早稲田大学を卒業、東芝本社の「レコード事業部門」に入社したのが1960年。
入社1年目、最初に手掛けることになったのが、「パラキン」こと「ダニー飯田とパラダイスキング」でした。もともとパラキンはビクターの所属でしたが、1960年7月に新興の東芝レコードに移籍。
このときボーカルを務めていたのが、まだ18歳だった坂本九です。22歳の草野氏は、年下の気安さもあり「九坊」と呼んでいたとか。

悲しき六十歳

九ちゃんは前年、ビクターでもレコードを出しましたがヒットせず、実質的なデビュー曲と言われているのが『悲しき六十歳』です。この作品は草野氏のディレクターデビュー作でもありました。
原曲はトルコの曲ですが、訳詞を誰に頼もうかと思案した草野氏。作曲家・すぎやまこういち氏に紹介されたのが、放送作家・青島幸男氏でした。
最初「オレは詩人じゃないから、詞は書けない」と断られましたが、「僕もレコード作るの初めてなんで、お願いします!」と頼み込み、引き受けてもらったとか。
つまり青島氏にとっても作詞家デビュー作で、このとき草野氏が強引に頼んでいなかったら、後の大ヒット曲『スーダラ節』も生まれなかったわけです。
トルコ語なんて分からない青島氏は、まったくオリジナルの物語を構成。タイトルはザ・ピーナッツ『悲しき16歳』のもじりでした。
坂本九、草野氏、青島氏、三人にとってデビュー作となったこの曲は幸い10万枚を売り上げ、草野氏は初仕事でいきなりヒットを飛ばしたのです。

さっそく第2弾を、ということで草野氏が企画を考えていたとき、洋楽部から「これをカバーしてくれないか」と持ち込まれたのが、新人歌手ブライアン・ハイランドの『ビキニスタイルのお嬢さん』でした。
この曲は岩谷時子訳詞でパラキンのもう一人のボーカル・石川進が歌いましたが、B面曲は九ちゃんが歌うことになり、選ばれたのが当時ステージでよく歌っていたジミー・ジョーンズの『Good Timin’』です。
草野氏は「手近なところで」と訳詞を実兄でもある草野昌一氏(後にシンコーミュージック会長)に依頼。

ステキなタイミング

昌一氏が「漣健児(さざなみけんじ)」というペンネームで訳した『ステキなタイミング』はA面以上の大ヒットとなり、九ちゃんの代表作の一つになりました(1960年10月発売)。
この曲をきっかけに、昌一氏&浩二氏の草野ブラザーズは、数々の洋楽カバー曲を量産。弘田三枝子などを通じて、1960年代カバーポップス黄金期を創り上げていったのです。

カレンダーガール

もう一曲、九ちゃん在籍時のパラキンで押さえておきたいのが、1961年6月発売の『カレンダーガール』です。
ご存じニール・セダカのヒットナンバーですが、訳詞を担当したのが星加ルミ子氏。
星加氏は後に、草野昌一氏が初代編集長を務めた音楽雑誌『ミュージック・ライフ』の編集長となり、ビートルズファンの間ではおなじみの方ですが、訳詞も多数手掛けており、この曲は代表作の一つです。

こんなふうに、気鋭の新人ディレクター・草野浩二氏の周囲には、当時の歌謡界に新しい風を吹き込もうとする人たちが集まり、それが永六輔・中村八大・坂本九の「六・八・九トリオ」による『上を向いて歩こう』の大ヒットへとつながっていくのです。

“坂本九&ダニー飯田とパラダイスキング”ここがポイント!
<草野浩二氏が手掛けた、九&パラキンナンバー>

・『GIブルース』(1961.1)
…プレスリーのカバー。訳詞のみナみカズみは、のちの安井かずみ。

・『九ちゃんのズンタタッタ』(1961.3)
…青島幸男作詞・作曲。青島氏自ら、草野氏に売り込んできたとか。
・『九ちゃん音頭(それが浮世と云うものさ)』(1961.10)
…盆踊り曲としてヒット。青島氏が作詞、九ちゃんの姉が振付を担当。

【チャッピー加藤】1967年生まれ。構成作家。
幼少時に『ブルー・ライト・ヨコハマ』を聴いて以来、歌謡曲にどっぷりハマる。
ドーナツ盤をコツコツ買い集めているうちに、気付けば約5000枚を収集。
ラジオ番組構成、コラム、DJ等を通じ、昭和歌謡の魅力を伝えるべく活動中。