9.11事件から17年~未だに癒えぬアメリカの傷

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月13日放送)国際政治学者の高橋和夫が出演。17年前の9.11事件が現在にまで残している爪痕について、中東情勢もふまえて解説した。

トランプ大統領が同時多発テロ17年を迎えて決意~テロの阻止に全力を尽くす

アメリカ同時多発テロから17年を迎えた9月11日。ユナイテッド航空93便が墜落したペンシルベニア州のビル現場近くで、犠牲者の追悼式が開かれた。トランプ大統領は「テロリストがアメリカを攻撃するのを阻止するためにあらゆる手段を尽くす」と述べ、テロ対策に努める姿勢を強調した。

飯田)ユナイテッド航空93便は映画の題材にもなりました。乗客が抵抗し、当初のテロの目的を果たせなかった航空機と言われています。もう17年経ったのですね。

高橋)9月にこれがあって、10月はアフガニスタンで戦争を始めて。17年間、アメリカはまだ戦争していますからね。

飯田)いまだにアフガンにも出していますからね。「縮小する」と言われていたけれど、なかなか縮小できない。「17年戦争をしている」というのは、アメリカ史での歴史でいちばん長い戦争です。亡くなった若者も多いですよね。

高橋)イラクでの戦争もある意味まだ続いていますから、死者が7,000名ほどに達しています。日本で相撲の名古屋場所の施設が7,500名くらいですから、あれくらいですね。
それから、重傷を負う方が多いです。戦場で負傷しても、現在は医療が発達して生存率は高くなりました。しかし、“重傷を負ったまま”生き残る方が多い。それが死者の7倍。つまり4万9,000人と言われています。東京ドームいっぱいの負傷者がいる、ということです。
さらに、五体満足で帰ってきても心を病んでしまい、アルコールや薬物に頼ったり、DVを行うようになったり、不眠症になったり。そういった後遺症を背負って自殺する方が毎日のように出ています。アメリカという国が負った傷の深さは痛々しい限りです。

国民の戦争に対する感情が生んだアメリカ第一主義のトランプ大統領

飯田)そうした方々の思いが「外に出るのではなく、国内のことをもっと考えろよ!」というトランプさん現象を生んだ、とも考えられるわけですよね。

高橋)そうですね。トランプさんは「アメリカファースト」と言いますが、それは「アメリカが1番、中国が2番」という意味ではない。「アメリカ国民が第1で、アメリカ国民の血を国益以外で流したくない!」というのがトランプさんの姿勢です。それがある意味では、ブッシュさんの弟であるジェブ・ブッシュを予備選挙で破った背景です。国民が「あなたは兄を支持しているだろう。彼が行った戦争で、アメリカはとんでもない目にあった!」と。みんなあの戦争はマズかったと思っていても、共和党の人間としては「それを言ったらおしまいだ」でしたが、トランプさんはそれを言ったことで、ジェブ・ブッシュを排除したのです。

飯田)タブーを言うことにより、「トランプさんだけは私たちの気持ちを分かってくれる!」と掴んでいったわけですか。

高橋)そうですね。アメリカは徴兵制ではないから、戦争へ行く大半の方は貧しい方が多く、トランプさんを支持したそうです。

「戦争を終わらせたい」という点ではトランプ大統領は国民に寄り添っている

飯田)そういう意味では、アメリカ社会全体を作り替えてしまった。病を深くしたというのがいまだに続いているわけですか。

高橋)そうですね。戦争はまだ続いています。トランプさんは「もう止めたい」と言っていて、アフガニスタンから撤退できるように将軍たちに命令しています。その意味では、トランプさんにはまともな部分もちゃんとあるのですよ。

飯田)でも、将軍たちとしては「仲間が血を流したところで、このまま帰るわけには行かない」と思いますよね。

高橋)そうですね。アフガニスタンもシリアも、いま撤退したら、本当に政権が倒れてしまう。あるいは、自分たちの支持した勢力が倒れて、アメリカが影響力を失ってしまう。その部分で「まぁまぁ」と抑えている部分があります。
しかし、「17年もやってきた。いい加減にしろ!」というのがトランプ的な言い方になります。この面ではアメリカ国民の気持ちは、おそらくトランプさんにあると思います。

飯田)それが中間選挙を前にすると、そういう主張も過激になってくるわけですね。

高橋)そうですね。その面では、トランプさんは本当に国民の気持ちに寄り添っている部分もあるのです。表現はあまりに激しいですけれどね。

アメリカに国を滅茶苦茶にされてしまったイラク

飯田)一方で、この事件が中東社会に及ぼした影響はどう考えますか?

高橋)アメリカが入ったことにより、イラクの政権をひっくり返したまま元に戻せない。やろうとしたことはいいのですが、結果として「独裁政権の方がまだよかった。少なくとも電気や水は使えた」という状況です。
だから、アメリカはいいことをしようとしたけれどガチャガチャになって、後始末をしてくれなかった、という感覚が中東に残っています。

飯田)結局IS(イスラム国)が登場したのもそれが原因ですか?

高橋)背景には絶対にそれがありますね。アメリカに対する感情も決して良くないし、アメリカが支払った外交面、国内面での代価は本当に大きかったと思います。

欧米とイスラム世界の分断~アルカイダの目的は達成されてしまった

飯田)ヨーロッパなどを見ると、ISの勢力が伸びて、国内でテロが起こる。特にフランスなどは移民でイスラム教徒の方が多く、社会から阻害されることもあるようです。

高橋)イスラム教徒に対する偏見が高まったのも、この17年間の出来事ですね。決して、欧米の人たちが最初からイスラム教徒を優しい目で見ていたわけではありませんが、「ほら見たことか」という感覚は強くなったと思います。

飯田)分断が進んでしまった、ということですか。

高橋)そもそもアルカイダが思っていたのは、「こういうことをやれば、イスラム世界と欧米が分断されるだろう」という思惑です。その意味では彼らは戦争に負けましたが、分断を深める目的は残念ながら達成したと言わざるを得ません。

飯田)始めと終わりだけをくっ付けてしまうと、乱暴な言い方ですが、テロが本来の目的を達成してしまった。本当に皮肉な17年ですね。

高橋)クリントン大統領の時代はアメリカは黒字経済でしたからね。この大きな戦争を2回やったことでアメリカは赤字経済になった。
それから、クリントン時代はアメリカだけが唯一の超大国でしたが、現在ではそうではない。
やはり、あのビルが2つ倒れた、ペンタゴンが襲われた事件がアメリカだけでなく、国際政治の風景そのものを変えてしまったのだと思います。

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