日ソ共同宣言時、日本が「二島返還」に合意しなかったのはなぜか

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月13日放送)国際政治学者の高橋和夫が出演。北方領土問題と日露関係について、ソ連時代にまでさかのぼり解説した。

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【日露首脳会談・東方経済フォーラム】共同記者発表後握手する安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領=2018年9月10日、ロシア・ウラジオストク 写真提供:産経新聞社

ロシアのプーチン大統領~前提条件なしに年内の日露平和条約締結求める

ロシアのプーチン大統領は昨日、ウラジオストクでの東方経済フォーラムで、安倍総理大臣に対して一切の前提条件を抜きに、今年までに日露で平和条約を締結するように求めた。さらに、「その後すべての係争中の問題を解決しよう」と呼びかけ、北方領土問題を事実上先送りする姿勢を見せた。以下は、これを受けて会見する菅官房長官。

菅官房長官)日露首脳会談においては、平和条約締結問題についても、両首脳間のなかで忌憚のない意見交換が行われたが、政府としては北方四島の帰属問題を解決して、平和条約を締結する基本方針のもと、引き続き粘り強く交渉がしたい。

飯田)菅官房長官は「北方四島の帰属問題を解決したうえで平和条約を結ぶというのは変わりない」と強調しています。

安倍総理は提案に言及せず

飯田)メールでかなりの質問をいただいています。埼玉県川口市のウィリアムズさんから。「これは北方領土棚上げでなし崩し、ということでしょうか。期限を設けたことは前進かもしれませんが、条約は意味がないのでは?」と。
それから、春日部市のジャスミンさんから。「これは日本からの経済支援が真意でしょうか。なし崩しで北方領土が返ってこなくならないか、心配です」と、かなり危惧している、警戒しているようなメールを多くいただきます。

高橋)交渉で話し合ったこととまったく違うものをパッと振ってくるのは、安倍さんがどういう反応を示すのか揺さぶりをかけたのでしょうか。そこで「そうですね」と言ってしまったら、首相の言質を取ったことになるわけです。さすがKGBだな、と思います。

飯田)これも交渉術ですか。引っかけにきている。

高橋)安倍さんも長く総理をやっていますから、そこはさすがに冷静でしたね。

飯田)総理はその後スルーする形で言及しなかったようです。これを「何も言い返さなかった!」と批判する声もありますが、これは悪い手ではなかった?

高橋)そこで反論して、テレビカメラ前で大議論をしても何も前進はないですから。総理の対応は1つの形かな、と思います。

日ソ共同宣言の際、日本が北方二島返還に合意しなかった理由

飯田)プーチンさんの発言は、「前提条件なしに、まずは平和条約」でした。日本側は、官房長官も言いましたが「まず北方四島をハッキリさせなければ、平和条約に行かない」と言っています。これは平行線ですか?

高橋)そうですね。プーチンさんが言うようにするなら、70年前からできているわけですから。いまさら何を言っているんだ、という感じです。

飯田)日露については、以前はソ連でしたが、1956年の日ソ共同宣言というのが1つ外交的にはあります。
これは「四島の帰属を確認したうえで、平和条約締結。その際に歯舞と色丹は日本に返す」ということが載っていましたよね?

高橋)このとき「二島を返して、平和条約を結びましょう」という条件に、「それでいいですよ」と日本側は乗りかかりました。しかし、アメリカが「残り二島を戻してもらわなくていいのか。それでいいのなら沖縄も返さないぞ」と日本を脅して、話が潰れてしまいました。
冷戦当時のアメリカは「領土問題がある限りずっと日本とソ連の関係は悪く、日本はアメリカに付くしかない」という作戦だったのです。
そもそも、アメリカがソ連をけしかけて第二次世界大戦に参加させたのです。だから、正面の悪はソ連ですが、後ろの悪はアメリカ。国際政治の厳しい構図が見えますね。

飯田)しかも、アメリカとソ連で取り決めた大西洋憲章によれば、「千島列島全島をソ連の物にしてしまう」とか。そして、それをもとにサンフランシスコ講和条約にも実は書いてあるとか。その辺りは、「どこまでが千島列島なのか」という見解で変わってくるわけですけれど。

高橋)そうですね。戦争に勝った方が決めたのです。プーチンさんからすると、「あの戦争の結果を書き換えたらロシアは失うものが多すぎて、とても認められない。ロシアはあの戦争で3,000万人の犠牲者を出して勝ち抜いたのだから、その結果として当然である」という言い方です。
ただ、ロシアも堅いばかりではない。例えば中国との国境問題は解決しましたし、ノルウェーとはバレンツ海の分割で合意しました。
つまり、妥協できるところは妥協しています。その意味ではプーチンさんは堅い面も柔らかい面もあるのです。

必ずしも盤石ではないロシアでのプーチンの立場

飯田)「プーチンさんが権力のある間は、堅くも柔らかくもできる。だからいまがチャンスだ」という声もあります。どう思いますか?

高橋)仰るとおりです。プーチンさんの権力がある間がチャンスですが、プーチンさんとしては領土面を譲って「弱いプーチン」のイメージを出せば、自分の基盤が崩れると思っています。なかなか領土問題で日本に対する譲歩は難しいと思います。

飯田)ロシア国内の話では、例の年金受給年齢引き上げ問題でだいぶ反発があって、支持率が下がっていると言われていますね。

高橋)そうですね。プーチンさんは人気が高い方ですが、「もう少し働いてくれ。年金を受け取るのは少し待ってくれ」と言うわけです。国民からすると「ロシア人の平均寿命を見たら、年金をもらう前に亡くなってしまう。払うつもりがないのだろう」と厳しい反論もある。本当にロシア人がみんなプーチンファンかと思っていたら、意外と冷めているのが分かりました。そこにほっとする部分もありますね。

厳しい状況にも関わらず、なぜ安倍総理は楽観的なのか

飯田)国内を睨みながら、となるとなかなか厳しい交渉になりますね。

高橋)それだけ厳しい状況なのに、なぜ非常に楽観的な顔で安倍さんはロシアへ行ったのか。プーチンさんを日本に招いたときも、いまにも話が付きそうな雰囲気を政府が語り、それをメディアが報道していたのが不思議な風景に見えました。私が見ている世界と違う世界を見ているのかな、と。安倍さんのことだから、何かウルトラCがあるのかと思って待っていましたが、それも出てこない。不思議な感覚がします。

飯田)あれは国際的に見ると「変わらないだろう」という冷めた見方が一般的でしたか?

高橋)私は「日本外交の203高地」と言うのですが、他の人はダメなのが分かっているのに、当人たちだけ、いかにも「できるぞ!」という雰囲気でやっている。「本当にそう思っているのかな?」と感じるのがこの北方領土問題ですし、10月の国連総会でいつも問題になる、「日本が安全保障理事会の常任理事国になれるか」の話も同じです。あれも、国連でそんなことを思っているのは日本人以外誰もいないと思うのですが、政府は「安保理改革」と仰るし、メディアはそれを書くし。私だけ違う地球に住んでいるのか、日本政府が違う地球に住んでいるのか。よく分からないですがとても不思議な感覚にとらわれます。

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