有森裕子「マラソンは生きることと同じ。決まっていない先のことを受け入れ、全力で挑む」【政井マヤ 世界ぐるっと カフェトーク】

ニッポン放送で毎週月曜19:20から放送している『政井マヤ 世界ぐるっと カフェトーク』。
5月2日~16日の放送では、陸上女子マラソン・バルセロナ五輪銀メダリスト&アトランタ五輪銅メダリストの有森裕子さんをお迎えしました。

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アトランタでのエゴロアとの8秒差というのはメダルへの思いの強さの違いだった

政井マヤ(以下政井) 5月のマスリーゲストはバルセロナでは銀メダル、アトランタでは銅メダルとオリンピック2大会連続のメダリスト、女子マラソン界のスーパースター、有森裕子さんです。

有森裕子(以下有森) よくみなさんも4年、8年ずっと継続したんですねってよく言われますが、その間ある大会の選考には落ちたりしているので波はあったのですね。だからずーと強かったわけではないんです。でも、運よく二回の波がちょうどオリンピックに重なったというラッキーなところはありました。

政井 二大会連続のメダル獲得は日本の女子陸上の歴史の中では有森さんが初めての快挙です。バルセロナでは激しい駆け引きを続けたロシアのエゴロア選手、8秒差での銀メダルでした。

有森 そうなんです。自分ではもう目いっぱいだったんです。後で聞いたらエゴロア選手は絶対に自分は金メダルを獲ると思っていたらしいのですが、私は正直言ってそこまでではなく、メダルを思い浮かべて走っていなかったので、8秒差というのはその思いの強さの違いだったんだなって終わってから思いました。

政井 有森さんはオリンピックという大きな舞台で走る時、何を思って走っていらっしゃたのですか?

有森 そんなにたくさんのことは考えていませんが、後半はこれまでやってきたことですね。これまでしてきた練習のこととか、サポートしてもらった人たちのこととか。ここまで来るために頑張ったこと「これを思い出したら」ということを考えますね。前半は「今日の体調はどうかな」とか、「足重いかな」とか「ポジションここでいいかな」とか現実的に起こることに順応するメンタルをその時その時に張り巡らしています。

政井 後半は一番きついところですよね。そこでこれまでしてきたことを思うのですか。

有森 バルセロナでは最後がムンジュイックの丘という有名なすごい坂だったんですが、その時はそれ以上の坂を練習していたのですよ。それを思い浮かべましたね。「あれができたのだから、この坂なんてなんともない」と思うことで乗り越えました。

政井 私たちが見ていてマラソンは、なんでここまで追い込んでやるんだろうと思っちゃいます。

有森 私がマラソンを始めた理由は大学の時に見たソウルオリンピックでポルトガルのロザ・モタ選手が優勝した時のゴールシーンが今までとは違う、満面の笑顔で全身で喜びを表してゴールしたんです。あれを見た時にやってみたいと思ったんです。

政井 世界中のトップアスリートと接してこられて日本では感じなかった世界の大きさというようなことはありましたか?

有森 学んだのは戦う時はランナーは敵同士なのですが、終わった後の人間的な絆の持ち方とかコミュニケーションの取り方というのがとても海外の人は素敵だったんです。彼らのお互い戦かった相手としてのリスペクトのスタイルというのが私は好きです。私はハグが大好きなんですよ。レースが終わって私はエゴロワとハグしましたが、日本にいるとなかなかないシチュエーションですよね。戦った同士でああいう形で迎えられてたたえ合えるということの素敵さというのは私にとってはとても大事な海外の選手との出会いであり、学びであったと思います・

頑張れるという才能を生かせるのは陸上だとわかったのは高校時代

政井 有森さんは岡山県岡山市のご出身ですが、どんな風に陸上競技、マラソンと出会われたのですか?

有森 陸上競技を始めたのは高校で陸上部に入ってからです。中学はバスケットで、小学校3年の頃は手芸クラブでした(笑)。競い事は苦手で走ることが早かったわけでもないですし、逆にみんなが出来ることができないというパターンが多かったのです。もともと足が悪く、股関節が外れて生まれてきたんです。これは見つけなかったら大変なことだったのですが、母が見つけてくれてすぐに処置したので直ったのですが、そういう足だったので動きが固く、鈍くかったので走ることが嫌いではないけれど、できないという感じでした。

政井 では小学校の運動会で花形だったというわけではないんですね。

有森 全然ですね。中の下くらいじゃないですか。そういう、みなさんが思い浮かばないようなスタートなんですが、出会った人たちがとても私をうまく育ててくださったんですね。うまく私の持っているものに気づいてくれて「お前はこれができないと思っているだろうけど、こういういいもの持っているよ」とか言ってくれた。その中に、「お前は頑張ることができる」と言われたのですよ。出来る、できないに関係なくよく頑張ると。それはすごい能力だから大事にしろと、頑張れるのはなんでもいいんだと。ただ、頑張るのであればつづけてゴールをちゃんとするのだぞと、それだけを教えられました。その先生がたまたま小学校で陸上を担当されていた先生でした。それが最初の陸上との出会いでした。

政井 そうなんですね。

有森 中学校に入って陸上部に入ろうと思ったのですが、部活がなかったので、ちょっとできるかなあと思っていたバスケット部に入れば、一生懸命がんばればできるかもと思って入ったのですが、そこでは3年間一応やりました。わかったことは私はボールを持つと前しか見えないんだということでした。チームプレー向いていないなあという(笑)。その間に運動会でみんなの嫌がる800メートル走というのが空いていたので、「これやらせてもらおう」と自分から立候補して出たら、それがたまたまできたので、私はこっちのほうが向いているんだと気付いたのですね。

政井 小学校の時に先生から言われた、頑張れるというところの、何が頑張れるのかということを見つけたのですね。

有森 諦めるということを知らなかったので、するんだったら最後までやるのだろうと思いました。考え方が不器用だったのですね。

決まっていないことに対して自分の中で力に変えて受け入れ、それをどう生きることにつなげていくか 

政井 有森さんが憧れていた選手はいらっしゃるのですか?

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有森 私がちょうど高校で陸上始めていた頃に上にいらっしゃったのが増田明美さんなんです。あの当時、彼女がやっていたトレーニングがすごくて、そういう情報とか彼女の様子にすごく興味を持っていましたね。憧れていたというよりはとても興味があった選手でした。

政井 それから小出監督に出会うわけですが、小出監督というとほめて伸ばすという印象があります。実際は厳しかったのですか。

有森 厳しいですね。選手によって育て方も全然違いましたね。ほめて伸ばすというやり方でやったのは高橋尚子先生。彼女はそれが彼女のいいところを引き出す一番のものだったのでそれに徹したのです。また、鈴木博美選手であったり、私であったりというのはまた違う接し方をされたと思います。

政井 有森さんが走ること、また走り続けることで見てきたこと、感じてきたことってなんですか?

有森 マラソンて相手にするものの確定要素がないんですよ。自分たちがどう思おうが来るすべてのものが全然違うんですね。時には山道、坂道だらけのコースだったりその日の天気が荒れていたり、戦う人数がわからなかったり、内容も違うので、いかに、わからないものに対して自分がどう整え、それを力にできるかということが大事な能力です。だたこれはよくよく考えると生きることと同じなんです。先のことは決まっていない。だとしたら決まっていないことに対して自分が何でもかんでもいい意味で力に変えて受け入れて、それをどう生きることにつなげていくか、ということは練習を含めて試合現場も含めてすごく大事な能力感覚だなと思いました。

政井 人生もそうですが、42キロ長い道のりでうまくいかない時ってありますよね。その時はどう整えていきますか?

有森 うまくいかなくなってもやらなくてはいけないことは一緒なので、最悪の中の最高を出そうと思います。一番ダメなのはあきらめること。

リオオリンピックで戦う福士加代子、伊藤舞、田中智美の選手としてのよさは?

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政井 今年、リオのオリンピックには福士加代子さん、伊藤舞さん、田中智美さんの三選手が代表として選ばれたわけですが、有森さんからみてこの三選手のよさはどういうところですか?

有森 三人三様でいいものをたくさん持っているのですが、順番に言うと、福士加代子選手、彼女の走りというのは天性だと思うのですが、間接、特に股関節まわりが非常に柔らかい動きをして流れるような動きができる。ですから海外のエチオピアの選手なんかに近いくらいのスムーズな走りができる。そして元々トラックの選手ですからスピードを持っている。バランスの取れた選手ですね。性格は皆さんご存知のように天真爛漫。でも反面、繊細なところもあって緊張もすごくするタイプなので、過度なマイナスな緊張をしなければいいなと当日の不安要素としてありますが、彼女の魅力で回りを明るくして周りの人が助けてくれると思うので楽しみにしています。

伊藤舞選手は最初に決まった選手ですが、彼女はけっしてスムーズな走りではないです。特徴のある、今、修正していると言っていましたが、変わったバランスで走る選手なんですね、ただ、頑固までの粘りを持てる選手なので努力家というところも含めて爆発的なスピードはないのだけれども何か、人が苦手な究極の粘りみたいなものを発揮できる選手だと思っています。

政井 そして田中智美選手。

有森 彼女は最後の名古屋で決めた選手ですが、田中選手の監督が山下佐知子さんという私の大親友なんですが、この監督さんもオリンピックをはじめ、経験豊富な人でして、バランスのあるきれいな走りをするタイプでした。田中選手も上体の使い方とか全体のバランスがとてもいい、きれいな、安定感のある走りをします。伊藤さんと同じですが、頑張って粘れるタイプですね。

政井 オリンピックまえそうやってすごされるのでしょう。何か月間と。

有森 もう、やれることをするしかないので焦ってもしかたないですし、これからは足作り期間、調整期間。そこに徹して一つ一つの練習をこなしていくしかないので7月に入ってからの調整期間、あんがい疲れて来て故障しやすくなったり気持ちも過度に不安になったり、すべてにどれだけ細心の自分の神経と忘れない目標を持ち続けて気をつけるかということですね。

まず、舞台に立てるかどうかが勝負なので、まず、スタートラインに立った瞬間にもう、一試合終り。ここに立てるか立てないかがまず勝負なんです。

政井 ではこれからこの三選手がその緊張感の中で調整期間に入るのですね。

有森 頑張ってほしいです。でもそういうことを挑戦できるということは一生のうちで何度もないですからね。小手先だけでどうにかなるものではないので。よく、当日の条件うんぬんとか言うのですが、条件がわかっているのならばそれを練習でできるようにすればいいということです。石畳ってわかっている、カーブが多いとわかっている、だったら、練習でそれをやればいい話なのです。そういう発想で練習するしかないんですよ。

持っている素材、素質は素晴らしいものがあるので、あとは本人がどうしたいかというところを確認してぜひ世界に挑んで欲しいなと思います。

写真提供:産経新聞社

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