しゃベルシネマ

あなたは他人を尊重していますか?

【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第473回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、8月31日に公開された『判決、ふたつの希望』を掘り起こします。


些細な“ご近所トラブル”が裁判へともつれこむ?!


レバノンの首都、ベイルート。その一角で住宅の補修作業をしていたパレスチナ難民のヤーセルと、自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人トニーは、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって諍いを起こす。2人の間に起きた些細な口論は、ある侮辱的な言動をきっかけに法廷へと持ち込まれることに。

両者の弁護士が論戦を繰り広げるなか、メディアはこの衝突を大々的に報道。やがて事態は、国全土を巻き込む騒乱へと発展していき…。


“クエンティン・タランティーノ監督のアシスタント・カメラマン”という経歴を持つ、レバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督。彼の最新作となる『判決、ふたつの希望』は、中東の歴史の重みを感じる法廷エンターテイメント。

ちょっとした“ご近所トラブル”が国家レベルの問題へと発展してしまうストーリーなのですが、これが“遠い国で起こった出来事”として、安易には片付けられないモノがある作品なのです。


本作にはもちろん、歴史的背景や民族問題が複雑に絡んでおり、法廷のシーンでは衝撃の事実とともに、主人公たちが背負った紛争や民族、政治、宗教といった繊細な問題が浮き彫りになっていきます。ですから、中東アラビア語圏では珍しい多民族他宗教国家であるレバノンの情勢を事前に知っておくと、より映画を楽しむことが出来るでしょう。

しかしそうした背景を知らずとも伝わってくる万国共通の普遍的なテーマを、ドゥエイリ監督は観客に投げかけています。


本作の原題は「侮辱」を意味します。ヤーセルとトニーによる“口論”は、相手の民族性や国情を考えると決して投げつけてはいけない“暴言”がきっかけとなって暴力沙汰となり、ついには裁判へと発展していきます。

他人を侮辱する“暴言”は心を深く傷つけ、時には肉体的ダメージを与える暴力にも等しいもの。考えてみれば、私たちは日常生活において、意図的に、あるいは無意識のうちに、他人を傷つけているかもしれません。

ドゥエイリ監督が本作について「政治・社会の対立を描いたものではなく、人間の尊厳への問いかけ」だと語るように、個人それぞれの尊厳と赦しをテーマにしたドラマは、観る者の心を深く揺さぶってやまないことでしょう。


判決、ふたつの希望
2018年8月31日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ 脚本:ジョエル・トゥーマ
撮影監督:トマソ・フィオリッリ 編集:ドミニク・マルコンブ
音楽:エリック・ヌヴー
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャ、リタ・ハーエク、クリスティーン・シュウェイリー ほか
©2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO ©TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL
公式サイト http://longride.jp/insult/

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