風雲急を告げる自動車業界変革の動き

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【報道部畑中デスクの独り言 第75回】

お盆休みはいかがお過ごしでしょうか。かつて日本の自動車市場はこの休みが明けると、各社が新型車を発表して「秋の商戦」がスタート。新聞が自動車関連の広告で埋め尽くされたものです。昨今はそうした“風物詩”も少なくなりましたが、それでも自動車業界にとっては大切な時期と言えましょう。

ところで「パラダイム・シフト」という言葉をご存知でしょうか?
自動車業界ではグローバル化の旗印よろしく、とかく横文字が出てきて辟易とすることがありますが、これは「その時代や集団・組織などで常識と考えられていることが劇的に変化すること」を意味し、自動車業界や電機業界の記事では頻繁に目にします。

風雲急を告げる自動車業界変革の動き

7月下旬から8月上旬にかけて、企業の決算発表が相次いだ 日産自動車の決算会見(2018年7月26日撮影)

7月下旬から8月上旬、上場企業では第一四半期(4~6月)の決算発表が相次ぎました。国内の自動車最大手、トヨタ自動車でも8月3日に決算会見が行われましたが、メディアの関心はアメリカのトランプ政権が検討している追加関税が、経営にどのような影響を及ぼすかに集中しました。
トヨタでは日本から車両を輸出した場合、1台当たり約6,000ドルの影響が出ると計算。年間ですと4,700億円分になり、白柳正義専務は「影響としては大きい」と話します。

一方で、「100年に一度の大変革をトヨタは大きなチャンスととらえている」…会見に同席した吉田守孝副社長の言葉です。翌日の日本経済新聞は追加関税への影響を報じたほか、こんな見出しも躍っていました。

「いすゞと資本関係解消 トヨタ、保有の全株売却」
「日産、電池子会社を売却 交渉相手変更 別の中国企業に」
「巨大アップル 異形の成長力 時価総額 初の1兆ドル突破」
「シャープ、技術開発に集中 白物家電の国内自社生産撤退」

風雲急を告げる自動車業界変革の動き

トヨタ自動車の決算会見、今回も「100年に一度の大変革」を強調

これらのニュースは「自動車」というフィルターを通すと、すべてが次世代技術に向けた競争への布石に見えてきます。トヨタといすゞはディーゼルエンジンの協業を行っていましたが、電動化・自動運転などの開発でかさむ膨大な費用を前に、さすがのトヨタも選択と集中を進めざるを得ないことがうかがえます。いすゞと同じトラック・商用車事業は、トヨタグループでは日野自動車が担っています。後ろ盾を失ったいすゞは、今後どうなるのかも気になるところです。

日産自動車の電池子会社の売却も、電動化に向けた戦略の一手でしょう。車載用の電池はいずれコスト競争の時代に入る、そうなる前に高値で事業を売却し、電池についても今後、外部から安価に調達していくという計算があるようです。

風雲急を告げる自動車業界変革の動き

日産グローバル本社ギャラリー 電気自動車「リーフ」をメインに展示

実は売却検討のニュースが流れた時、私は正直驚きました。電気自動車で世界でも主導的立場にある日産が、「虎の子の技術」である電池事業を売っぱらってしまうのは「何ともったいない」ことかと…素人目には思ってしまうのですが、これも自動車ビジネスの厳しさなのかもしれません。
売却の相手は「エンビジョングループ」という中国の企業グループ。聞くところによると、中国では「EVバブル」と呼ばれる電気自動車の激しい開発競争真っ只中ということで、そういう意味ではまさに「売り時」ということになるのでしょう。

風雲急を告げる自動車業界変革の動き

日産自動車の決算会見 田川丈二常務、追加関税について「影響は甚大。いろんな対策を取れるよう準備はしていく」と語る

アップルの時価総額、日経は過去の巨大製造企業との違いを強調する記事になっていましたが、巨額の手元資金がどのように使われるのか、大いに注目されます。iPhoneなどに代わる成長の青写真はまだまだはっきりしないものの、コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化…OS(基本ソフト)を中心にプラットフォームを構築し、次世代の自動車業界の覇権を握るのではないかという見方は絶えません。

そしてシャープの動き…白物家電の生産を、コストがかかるとされる日本国内から海外に移すことで、「家電王国日本」の看板が揺らぐ寂しさは感じます。が、そうしたコスト削減によって得たものはどこにいくのか? 日経は「技術開発に集中」としていますが、車載事業の強化もその一つです。

同じ日の産経新聞の報道では、このようにシフトしている家電大手は少なくなく、パナソニックは車載用電池、ソニーは車載用半導体センサー。日立製作所がIoT=モノのインターネット強化、NECはAI=人工知能や生体認証に専念とあります。ちなみに前出で日産が売却した車載用電池事業は、NECとの共同出資でした。家電業界も自動車の次世代技術への投資に、大きく舵を切っているのです。

風雲急を告げる自動車業界変革の動き

トヨタ自動車の決算会見(2018年8月3日撮影)

こうした動きは、たまたまトヨタ自動車の決算発表日と重なったわけですが、単なる偶然ではないのかもしれません。この日は「100年に一度の大変革」と言われる、自動車業界の“地殻変動”に向けて巨額の資金が動く…それが改めて顕在化した日でもあったと思います。

トランプ政権が検討している追加関税による負担額は、トヨタにとって年間純利益の5分の1近くを占め、もちろん無視できる数字ではありません。むしろ衝撃的といっても過言ではなく、足元の不安材料であることは確かです。
ただ、会見では幹部がもっと先にある地殻変動=自動車業界の「パラダイム・シフト」に、より大きな危機感を感じているように見えました。

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