あけの語りびと

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

りんご畑 岩木山 陶芸家 今井 理桂 陶芸 窯

りんご畑と岩木山を一望できる景色

青森県黒石市……、リンゴ畑に囲まれ、「岩木山」が一望できる丘の上に、陶芸家・今井理桂(りけい)さんの工房と登り窯があります。

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

陶芸家・今井理桂さん

今井理桂さんは、今年71歳……。大学卒業後、平安時代に焼かれた常滑(とこなめ)焼の壺に魅せられ、「千年経っても輝きを失わない、生命力あふれる焼き物を作りたい」と26歳で陶芸の道に入ります。

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

烏城焼(うじょうやき)

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

「内閣総理大臣賞」を受賞した作品

以来、今井さんがほぼ独学で築き上げてきたのが、烏の城と書いて、「烏城焼(うじょうやき)」です。釉薬(うわぐすり)など、科学的なものは一切使いません。
登り窯の中は1,300度に達し、薪に使う赤松の灰が作品に付着し、さらに高温で溶けて流れ落ち独特の光沢と模様を作り出します。
この炎と土が織りなす美しい模様と造形が評価され、「内閣総理大臣賞」「文部科学大臣賞」など数々の賞を受賞しました。

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

足利の70メートルを誇る登り窯

今井さんはいままでに足利市で70メートルの登り窯、新潟で世界一となる100メートルの登り窯の建設事業に参加。100メートルが世界一ならそれを超える登り窯を作りたいと、22年前の平成8年、ふるさと青森に戻り、リンゴ畑の斜面に世界最長101メートルの登り窯を作り始めました。
22年間、コツコツとレンガを積んで現在94メートル……、世界一まであと7メートルの所まで来ています。

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

現在作成中の窯の完成予想図。世界一まであと7メートル

しかしこの間、様々な困難に直面します。平成17年の豪雪では、窯を覆う小屋が押し潰され作業が中断。さらに、今井さんの体にがんが見つかり、2度の手術を受けました。

豪雪 潰れた 釜小屋 屋根 窯 世界最長 建設途中

豪雪で潰れてしまった釜小屋の屋根のようす

体力が落ち、死も覚悟したという今井さんですが、「ここでがんに負けてはいけない」と気力をふりしぼると、消えかかった情熱の炎が再び燃え始めていきました。

そんな今井さんを影で支えたのが、長女の土屋美奈さん、35歳。

世界最長101メートルの窯を目指す 陶芸の『景色』を見るために

ご家族の集合写真(中央がお父様、その左がお母様、子を抱く美奈さんと三人のお子さん)と従業員の方々

「子供の頃はとっても怖い父親でしたね。その仕事が終わるまで家族みんな夕食を待つのは当たり前……。テレビのチャンネル権も父で、何でも一番でした。私にとって登り窯は、重たい薪を弟たちと何度も運んだ、きつかった思い出しかないんですよ」

そんな美奈さんも大学を卒業し社会人になると、焼き物だけで家族を食べさせてきた父親の苦労がわかったそうです。
美奈さんは結婚して現在は千葉県に暮らし、三人の子育てに追われる一方で、父親の仕事を10年ほど前からサポートしています。

築釜 作業 釜 床張り 建設途中 今井 理桂

築釜作業(上)、釜の床張り作業(下)

「東京で個展を開くためのギャラリーを探したり、お客さんにダイレクトメールを送ったり、いろいろ営業もしています。さしずめ私は烏城焼の関東支店営業部といったところでしょうか」と笑います。

大病を乗り越え、世界最長の登り窯作りを再開した今井さん。あと7メートルまで来て、その先がなかなか進みません。
というのも、窯作りの材料は高額な「耐火レンガ」を使うため、その資金集めに四苦八苦しているからです。

父親の最後の夢を実現させてあげたいと、娘の美奈さんは知人のススメもあってクラウドファンディングを始めました。

「残りの耐火レンガの費用だけでも500万円かかります。父の挑戦に賛同してもらい、烏城焼の素晴らしさを知ってもらうキッカケになればと、クラウドファンディングによる資金調達を選択しました。」

よく聞かれることがあるそうです。「そんなに長くして、何か違いがあるんですか?」と……。
陶芸の世界では、焼きあがった模様を「景色」と呼ぶそうです。今井理桂さんは言います。
「101メートルの登り窯で焼いた『景色』は、全く違うはず……。その『景色』を見たい一心で、101メートルを目指しています。」

小屋掛け 終了 窯場 窯 建設途中 世界一 予定

小屋掛けを終了した窯場の遠景からのようす

101メートルの登り窯は、青森に雪が降る前、今年11月末までに完成させる予定だそうです。登り窯は火入れをすると107日間、3ヶ月半も薪をくべ、火を焚き続けます。
膨大な薪を用意したり作品の準備などもあるので、火入れは2年後、東京オリンピック開催の年を目標にしています。

また最近、美奈さんの下の弟で次男の保典さんが、「烏城焼を継ぐ」と宣言したそうです。
烏城焼の炎は消えず、二代目へと受け継がれていくんですね!

津軽烏城焼 三筋工房
〒036-0341 青森県黒石市大字豊岡字狼森27-109
TEL 0172-53-3082
津軽烏城焼公式サイト:http://www.ujoyaki.jp

クラウドファンディングサイト「Readyfor(レディーフォー)」
目標金額は500万円。
支援金の主な使途内訳は、窯づくりに使用するレンガ代。
支援額は5,000円~100万円で、
リターン品には、烏城焼作品や窯炊き体験などを用意。
プロジェクト支援は9月30日まで。
http://readyfor.jp/projects/noborigama

上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00

朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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