“西日本豪雨”を受けて その1 特別警報が意味するものは…

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【報道部畑中デスクの独り言 第68回】

今月上旬に西日本を中心に襲った豪雨は死者160人を超す甚大な被害となりました。(7月11日時点)また、3日間に11の府県で大雨特別警報が発表され、これは2013年に運用を始めてから最多です。今回の豪雨がいかに広範囲で長時間続いたかということです。厳しい暑さの中で救助活動、復旧作業が続く一方、雨が収まってからも川の氾濫が相次いでおり、いまだ予断を許さない地域もあります。

この期間、私は気象庁で記者会見などの取材を行いました。気象庁では「平成30年7月豪雨」と名称を定めました。地域については西日本だけでなく九州北部、東海など広域にわたったために記されませんでしたが、メディアの一部は「西日本豪雨」と伝えています。

今回の豪雨、メカニズムとしては、停滞する梅雨前線と、太平洋高気圧の縁を回る「縁辺流」と呼ばれる暖かく湿った空気が前線に向かって流れ込むことによってもたらされたということになります。これ自体は典型的な「梅雨末期」の天気で、決して珍しくはないとされていますが、今回は台風7号から変わった温帯低気圧も大きく影響しました。

京都府 兵庫県 大雨 特別 警報 発表 気象庁 記者会見

京都府・兵庫県の大雨特別警報を発表する気象庁の記者会見(7月7日午前0時ごろ)

なぜこれだけの記録的大雨となったのか、気象庁では推測とした上で次の2つを指摘します。


①梅雨前線が“ほぼ同じ場所”に長く停滞したこと

梅雨前線は一般に北のオホーツク海高気圧と南の太平洋高気圧にはさまれ、停滞性が強いと言われますが、そうは言っても梅雨の期間は一日一日、北上したり南下したりしているものです。しかし、今回は日本列島、特に関東甲信から九州北部にかけて、頑として動かず、長く横たわりました。(「ロックされた」と表現する人もいます)上記の2つの高気圧が梅雨前線と「ガチで拮抗」し、身動きが取れなくなったのではないかと言われています。


②太平洋高気圧の縁を回る暖かく湿った空気の量が多かった

気象庁ではこの点をより注目していました。今回の豪雨は台風7号から変わった温帯低気圧が影響したということは先に述べました。台風は本来、積乱雲を巻き込みながら進んでいきますが、今回は雲のすべてを取り込むことができず、残していったのではないかというのです。いわば台風の「忘れ物」である“残り雲”が、水蒸気量の増加をもたらしたと推測されています。

こうした要素が重なり、総雨量(降った雨の合計)で記録を更新する地域も相次ぎました。昨年の九州北部豪雨の時に小欄では「“台風一過”は死語になるのか」というタイトルでお伝えしましたが、今回の豪雨でその思いをより強くしたところです。

7月7日 午前6時 実況 天気図 気象庁 資料

7月7日午前6時の実況天気図(気象庁資料から)

さて、今回の豪雨では大雨特別警報が運用開始以来最多の11の府県に上りました。大雨特別警報は数十年に一度の豪雨があった時に発表されますが、発表する際の指標となる数値があります。それは48時間雨量(2日間に降った雨の合計)、3時間雨量、土壌雨量指数の「50年に一度の値」というデータです。これらの数値を基に、かつ「府県程度」の広がりが予想される場合に適用されます。

では「50年に一度の値」とはどういうものか…これは自治体単位でそれぞれ違います。それぞれの地域で雨の降り方が違うのですから当然です。雨がよく降る地域は数値も高く、降らない地域は低くなるわけです。例えばニッポン放送のある東京都千代田区では48時間雨量は402ミリ、3時間雨量は169ミリとなっています。一方、今回甚大な被害をもたらした岡山県倉敷市は48時間雨量が228ミリ、3時間雨量は94ミリ。大量の雨が降りながら、なかなか特別警報が出なかった高知県は高知市で48時間雨量は1062ミリ、3時間雨量が245ミリです。雨に「強い地域」と「弱い地域」でこれだけの差があるわけです。お住まいの地域については以下をご参照下さい。(なお、これはあくまでも「数値指標」であり、特別警報の絶対条件ではありません。ちなみに大雨警報・注意報にも地域に応じた基準があります)

気象等の特別警報の指標(気象庁ホームページから)
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tokubetsu-keiho/sanko/shihyou.pdf
雨に関する各市町村の50年に一度の値一覧(気象庁ホームページから)
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tokubetsu-keiho/sanko/1-50ame.pdf

なお、3時間雨量の場合は150ミリ以上となったブロックだけをカウントします。これを単純に1時間平均にすると50ミリ…つまり3時間雨量を基準とした大雨特別警報が出る時、現象としては「滝のような雨が3時間続く」可能性があるということになります。ただ、これもあくまでもパターンの一つです。こうならない場合でも警戒しなくていいというわけではありません。

西日本 豪雨 広島 強い 日差し スコップ 泥

【西日本豪雨・広島】強い日差しの中、スコップで泥をかき出す男性=2018年7月10日午前10時27分、広島市安佐北区口田南 写真提供:産経新聞社

続いて「府県程度の広がり」とはどういうことか…まず48時間雨量では50年に一度の数値の区域が、5キロ四方のブロックにして50以上予想されることが基準となります。同様に3時間雨量の場合は5キロ四方のブロックにして10以上になります。ちなみに大島で5年前の2013年、大規模な土砂災害がありましたが、特別警報は発表されませんでした。「府県程度の広がり」を考えると、面積の小さい島しょ部、局地的な現象については特別警報は出にくいということになります。

残る指標が土壌雨量指数。これは降った雨が土壌に染み込んでいる量、つまり土の中にどれだけの水を含んでいるかを、「タンクモデル」というモデルを使い、複雑な数式を計算して数値化したものです。これも地域によって細かく違います。

今回の大雨特別警報は愛媛・高知両県を除いて48時間雨量が発表の基準になりました。長い時間だらだらと降り続いたことがここでも裏付けられています。愛媛・高知両県は基準の厳しい地域でしたが、8日未明にかけて短時間に大雨となったために3時間雨量の基準による発表となりました。

以上のことを考えると特別警報について、いま一度注意が必要なのは、指標となる数値が地域で一律でないため、同じような雨であっても発表されるところとされないところがある、局地的な現象については発表されにくいということです。逆に言えば、特別警報が出ていないからと言って安心するのは禁物ということになります。むしろ大雨警報、土砂災害警戒情報、記録的短時間大雨情報などが発表されている地域は、特別警報が出る前に行動を起こす必要があると言えます。

そして特別警報が出る時は「もうあかん時」(気象庁関係者)…災害がいつ起きてもおかしくないということです。気象庁は様々な解説をもって対応してきましたが、われわれメディアも含めた伝え方、受け手の意識は十分であったのか…検証する必要がありそうです。(その2につづきます)

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