はやぶさ2 いよいよ目的地に到着! これからが本番だ!

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【報道部畑中デスクの独り言 第65回】

JAXA 宇宙科学研究所 相模原 キャンパス

JAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)

「みなさん、おめでとうございます」

プロジェクトの責任者=プロジェクトマネージャーでJAXA宇宙科学研究所の津田雄一准教授(以下、津田プロマネ)の一言に管制室のメンバーが立ち上がり、拍手が沸き起こりました。

2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」が日本時間の6月27日午前9時35分、小惑星「リュウグウ」の上空約20キロに到着しました。今回は小惑星探査の第二弾。“先輩”の初号機「はやぶさ」は小惑星「イトカワ」の微粒子を採取する「歴史的偉業」を成し遂げましたが、様々なトラブルに見舞われ、満身創痍の航行でした。「リベンジ」も兼ねたはやぶさ2、ここまで約3年半、32億キロの長旅でした。

記者会見 宇宙 科学 探査 交流 棟 探査機 レプリカ

記者会見場となった宇宙科学探査交流棟 探査機のレプリカも

「きょうは非常にいい報告をさせていただきにまいりました。本日私たちは、人類未踏の宇宙科学探査の入り口に立つことができました」

神奈川県相模原市のJAXA相模原キャンパス・宇宙科学探査交流棟に設けられた記者会見場。到着から6時間あまり、午後4時過ぎには正式な記者会見が開かれ、津田プロマネは上気した表情で第一声。そして「天にも舞い上がる気持ち」とはにかんだ笑顔を見せました。(ちなみにはやぶさ2はすでに天に舞い上がっています)

経過説明 行う 吉川真 JAXA 准教授

担当者が経過説明を行う 長い1日に(中央は吉川真JAXA准教授)

小惑星「リュウグウ」は浦島太郎が「玉手箱」を開けるが如く宇宙の神秘を探る…その目的地「竜宮城」にちなんで名づけられました。

上空約20キロまで達したことで、ぼんやりしていたリュウグウの姿もかなりはっきりしてきました。直径はほぼ想定通りで約900m、しかしその形状は当初予想されていた球形ではなく「コマ型」と呼ばれる「そろばんの珠」のような形でした。さらに表面には直径200mほどのクレーターのようなくぼみや、「ボルダ―」と呼ばれる多くの岩の塊が確認されています。そのほか、自転軸はほぼ垂直、自転周期は7時間半、回転方向は地球とは逆、つまり地球の基準からすると、北極と南極が逆の可能性があります。

はやぶさ2 リュウグウの JAXA 東京大学

はやぶさ2のカメラが6月26日に捉えたリュウグウの画像 かなりのデコボコが…(JAXA、東京大学など提供)

リュウグウは初号機「はやぶさ」が微粒子を採取した「イトカワ」とは違い、有機物や水を含むとされています。採取した物質を分析すれば、生命の起源を解明する重要な手がかりが得られるのではないかと期待されています。さらに「はやぶさ2」はリュウグウの“地中”から物質を採取する試みにチャレンジします。インパクタと呼ばれる衝突装置で弾丸を地上にぶつけて人工的にクレーターをつくり、舞い上がった粒子を取り込むのです。惑星の表面は宇宙放射線や太陽の光の影響を受けて変質したり、風化したりしていますが、地中の粒子は約46億年前に小惑星ができた時の状態をそのまま保っていると言われています。いわば“フレッシュ”な粒子を手に入れるのがはやぶさ2の最も重要な任務と言って過言ではありません。

はやぶさ2 クレーター 着陸 JAXA

「はやぶさ2」クレーターへの着陸イメージ図(JAXA提供) 目標に向けて試練は続く

はやぶさ2は今後、「相手を知る」…安全に着陸するために、惑星の表面をさらに詳しく調べた上で、本格的な探査作業をスタートさせます。JAXAの素案では物質採取は9月以降となっていますが、表面の状況が見えてきたことで、新たな課題も出てきました。

「見れば見るほど“どこに着陸するんだ”と疑問が湧くような小惑星。難しくなることは織り込み済みだが、…にしても難しそうだと思う。神様はそんなに優しくないんだなと思った。でも着陸する場所は必ずあると思う」

説明 津田 雄一 プロマネ

身振り手振りで説明する津田雄一プロマネ

津田プロマネはこのように話します。確かに素人目にもデコボコが多く、どこに着陸するか、相当の知恵を絞ることになりそうです。一方、わずか直径900mの惑星にこれだけ多くのボルダ―があるのは不思議だとのこと。会見に同席した渡辺誠一郎名古屋大学大学院教授は「いろんな表情を見せてくれて、謎が見えてきた。これから冒険が始まる。ワクワクしている」と話します。…探査の研究者から見ると相当興味深く、探査機の安全と良質の粒子採取…両者のバランスをとりながらの作業になりそうです。「創造性をもって大胆にやっていきたい」と語る津田プロマネ。このあたりは人間の探検にも似たところがありますね。

記者 会見

午後4時過ぎ、記者会見が始まる

このように、到着したことで今後は着陸、探査へとステージが移っていきますが、ここまでの32億キロの“長旅”は決して平坦なものではありませんでした。これまで10回の軌道制御、スイングバイも行ってきましたが、何せ惑星の直径はわずか900mです。軌道の推定はわずかなズレでも大きな方向変化につながります。JAXAでは「日本から塩粒ほどの粒子を投げて、地球を8周して日本の裏側、ブラジルにある直径6センチの的に当てる」ことに相当すると話します。いかに難しい作業がおわかりいただけると思います。

会見 カメラ マイク

会見場にはカメラ約20台 マイク12本がズラリ 関心の高さを示す

ニッポン放送 送信 設備 準備

ニッポン放送も送信設備を準備 昼食はカロリーメイトでした

また、現在は上空約20キロで“ホバリング”をしている状態です。これはリュウグウからの重力の影響を受けない距離と言われていますが、それだけに今後は接近するにも難関が待ち受けます。リュウグウは球形ではないため、重力がどのように働いているのか全くわかりません。我々が地球上に普通に立っていられるのは、地球がほぼ球形(厳密には違う)で、重力が地球の中心方向に働いているからですが、リュウグウがそうなっているのかさえまだわかりません。小惑星であることから重力そのものは小さいと推測されますが、分布がいびつで思わぬ方向から力が働く可能性もあり、そういったことも慎重に確認しながら姿勢を保っていく必要があります。片時も目は離せません。

はやぶさ2 プロジェクト チーム リーダー

はやぶさ2プロジェクトチームのリーダーが勢ぞろい

新たな懸念は山積ですが、だからこそおもしろいと言えます。まずは32億キロの「往路」を完走したはやぶさ2。

FIFA ワールドカップ日本代表の行く末も気になるところですが、一足早く日本の宇宙開発は快挙を成し遂げました。「無傷で到着できたのは快挙だが、もっと高い壁がある。“ワールドカップ”の優勝を目指したい」と語る津田プロマネ。本番はまさにこれからです。

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