ザ・ドリフターズからドンキーカルテットへ~小野ヤスシの青春

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【大人のMusic Calendar】

小野ヤスシという名前から思い浮かぶのは、「スターどっきり㊙報告」の4代目キャップを務めた司会者としての顔か、ドンキーカルテット時代のコメディアンの姿か、はたまたロカビリー期のザ・ドリフターズでのミュージシャン時代か、年代によって違うであろうが、なんでも器用にこなすマルチプレイヤーの本質は真面目で神経質な性格だったと思う。それはテレビの画面からも伺い知ることが出来た。公の場における最後の仕事となった盟友・加藤茶の結婚披露宴でも、体調が優れない中で司会の大役を立派に努め上げ、それから4ヶ月にも満たない2012年6月28日に72歳で旅立った。今日は小野ヤスシの命日。7回忌にあたる。告別式で弔辞を読んだ平尾昌晃も左とん平も不帰の人となってしまった。

“鳥取が生んだスーパースター”を自称していた小野は、父親の仕事の関係で日本統治下の朝鮮で生まれ、幼少の頃に日本に引き揚げてきて鳥取県境港市で育った。ロカビリー全盛時代の1960年に桜井輝夫とザ・ドリフターズに参加する。後のコメディ・グループになる前、純粋なバンド時代のドリフターズである。1964年、桜井輝夫が脱退して碇矢長一(後のいかりや長介)がリーダーとなったが、そのワンマン体制に不満を持った小野は、メンバーだった飯塚文雄、ジャイアント吉田、猪熊虎五郎と共に脱退して4人でコミックバンド“ドンキーカルテット”を結成してエレキギター兼リーダーを務めることに。世は演芸ブームに沸いており、人気を獲得することとなった。いかりやとは顔を合わせづらかったに違いないが、ドリフに残った加藤茶とは生涯の友としてその後も付き合いが続いてゆく。

ザ・ドリフターズからドンキーカルテットへ~小野ヤスシの青春

演芸ブームで多くの芸人たちがレコードを出す中、音楽に重きをおいていたドンキーカルテットも例外ではなく、1968年に「男のまごころ/さいはての渚」で東芝レコードから歌手デビューを果たした。両面共、後の石坂まさをが本名の澤ノ井龍二名義で詞を書き、川口真がアレンジしている。この直後にドリフターズが奇しくも同じ東芝から「ズッコケちゃん/いい湯だな」でレコードデビューしており、最初のレコードはドンキーカルテットの方がほんのちょっとだけ早かった。この盤はそれほど売れなかったものの、翌々年の1970年に、今度はRCA(日本ビクター)から発売された「宮本武蔵/夕べ酒場で聞いたうた」は、この手の企画ものでは異例のヒットとなり、作詞・作曲をしたジャイアント吉田の手元にはそれなりの印税が舞い込んだはずだ。快進撃を続けていたドリフターズが「ドリフのズンドコ節」や「ほんとにほんとにご苦労さん」などレコードも大ヒットさせていた時期だけに、小野をはじめとするメンバーたちは大いに溜飲を下げたに違いない。続いて出された「ドンキーの歌げんか/トン馬節」はあまり売れなかったけれども。

ザ・ドリフターズからドンキーカルテットへ~小野ヤスシの青春

ドンキーカルテットでは、ほかにも忘れてはならない音盤がある。それはレコードではなくフォノシート。『牧伸二だよ!!』と題されたビクターミュージックブックからの一枚は、表紙だけ見ると牧伸二の単独盤かと思わされるが、裏表紙にはしっかりドンキーカルテットも写っている共演盤。コント55号の座付き作家として知られる岩城未知男が作詞した「癇にさわるよ」が彼らの歌で収められている。当時、牧伸二とは時々組んで仕事をしていたという。メンバーは既に飯塚文雄から岩井勝(=祝勝)に交代済み。65年に出されていたので、こちらの方がレコードよりも早かった。カントリーやロカビリーをルーツとするドンキーカルテットの演奏は本格的で、なおかつ、あきれたぼういずや灘康次とモダンカンカンから通ずる“ボーイズ”の流れも汲んでいた。活動期間こそ短かったが、それだけに徐々にコントに重きを置いて演奏から離れていったドリフターズよりも、往年のフランキー堺とシティ・スリッカーズやハナ肇とクレージーキャッツに近い趣の集団だったといえるだろう。

ザ・ドリフターズからドンキーカルテットへ~小野ヤスシの青春

1970年にグループ解散後、小野はタレントへ転身し、バラエティ番組の司会やリポーター、映画やテレビドラマではコメディリリーフとして活躍した。84年から85年にかけて、日本テレビで放送されていたレオナルド熊のバラエティ番組「WAッ!熊が出た!!」の中で、帰ってきたドンキーカルテットのコーナーが設けられたこともあった。小野はジャイアント吉田と2人で原点に帰って往年の音楽コントなど年季の入った芸を披露している。晩年には加藤茶、仲本工事(時に高木ブー)と3人での“加トちゃんバンド”での活動もあり、いかりやは既に世を去ってはいたものの、ドリフターズとドンキーカルテットの手打ちの様でなんだか嬉しく感じられたものであった。

ドンキーカルテット「男のまごころ/さいはての渚」「宮本武蔵/夕べ酒場で聞いたうた」『牧伸二だよ!!』ジャケット撮影協力:鈴木啓之

【著者】鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。
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