猫と犬が力に? フジコ・ヘミングのピアノの音色の秘密

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【ペットと一緒に vol.92】

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

苦難を乗り越えて60代で世界に見いだされたピアニスト、フジコ・へミングさん。初のドキュメンタリー映画である『フジコ・ヘミングの時間』を観ると、フジコさんが愛犬や愛猫と心を交わす日常にも触れることができます。

フジコさんにとっての犬や猫の存在とは? その視点から、映画の見どころを探っていきましょう。


猫たちに囲まれて

映画は、フジコさんが暮らすパリのアパルトマンの一室から幕を開けます。
フジコさんが、まるで楽曲を演奏するかのように好きなアンティークを飾り付けていった部屋で、フジコさんがピアノを奏でていると、「ニャ~ン」と柔らかな鳴き声を響かせながら愛猫もそばに寄ってきます。

パリで今フジコさんがともに暮らしているのは、猫2匹と犬2頭。都内の自宅には、拾ったり保護したりした猫が25匹いるそうです。
パリの猫のほうが少ないのは、パリは助けようにも野良猫がいない街だから。

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

1889年に建てられたパリの石造りのアパルトマンで愛猫を抱っこするフジコさん ©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ

年間およそ60本のコンサートを行うフジコさんは、犬や猫などの動物愛護のためのチャリティー活動も続けています。

筆者が訪れた本映画のトークショー(6月6日、よみうり大手町ホール)でフジコさんは、「どうかみなさんも、猫たちを助けてあげてください」と呼びかけていました。
また「少しでもなにかをして生きていくことが、人間としてするべきことだと思っているので」とも語っていました。

そのようなフジコさんの志は、ふとした行動にも現われています。コンサートで訪れた海外の地でも、ホームレスにコインを渡したり、アスファルトの上に落ちていた花苗を土に戻したり……。
フジコさんの奏でる音色からあふれるやさしさの源を、映画のいくつかのシーンから教えてもらえることでしょう。

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

80代になった今も世界中からオファーが絶えません ©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ


演奏に深みを持たせる存在とは

「ちょんちょんがいなかったら、今の私はない」と、映画の中でフジコさんは言います。
ちょんちょんとは、パリでフジコさんと生活している愛猫のこと。

ピアノの練習をしている時にちょんちょんが近くにくると、フジコさんは手をとめてちょんちょんのためにミルクを用意しにキッチンへ。
フジコさんをなぐさめ支えてきた猫たちもまた、フジコさんから注がれる愛情と心の交流を生きる喜びにしているのだと、感じずにはいられません。

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

フジコさんが愛する、ちょんちょん ©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ

フジコさんの父方の曽祖父は、スウェーデンで獣医師だったとか。その魂が受け継がれていることを誇らしく感じていると、フジコさんはご自身の著書でも述べていました。そんな曽祖父を尊敬していると語るフジコさんは、犬もこよなく愛しています。

トークショーでの語りによると、フジコさんは毎日パリのカフェに愛犬のアンジンを伴って出かけるそうです。
映画では、コンサートツアー中にペットシッターをしてくれている友人のもとへ、電車を乗り換え何時間もかけて迎えに行く様子も追っています。

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

アンジンと。ドイツにて ©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ

フジコさんにとって、犬や猫は伴侶なのです。
筆者もひとり暮らしをしながら愛犬とともに何年もの時を過ごしてきたので、フジコさんの愛犬や愛猫への思いはよくわかります。
そして、愛犬や愛猫がどれだけ生きる力になってくれたことか。

どんなに悲しくても辛くても、犬や猫はずっとそばに寄り添ってくれます。
フジコさんの奏でる音色に豊かな情感を添えてきた存在こそ、ともに生きる猫たちや犬たちであることが、映画をとおして伝わってくるに違いありません。

フジコ ヘミング フジコ・ヘミングの時間

アンジンと。ドイツにて ©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ

60代後半でデビューし、80代になった今でも世界中で演奏活動を続けるフジコ・ヘミング。年間約60本のコンサートをこなし、チケットは即完売で新たなオファーも絶えない。その情感あふれるダイナミックな演奏は多くの人の心をとらえ、“魂のピアニスト”と呼ばれている。本作は、世界を巡るフジコを2年にわたって撮影した初のドキュメンタリー映画。お気に入りのアンティークと猫たちに囲まれて暮らすパリの自宅で迎えるクリスマスの情景、宮大工がリフォームした古民家で過ごす京都の休日、留学時代の思い出が宿るベルリン郊外への旅など、初公開のフジコのプライベートが観れる。世界中の人々を魅了してやまないフジコの音楽は、どんな人生・ライフスタイルから生まれてくるのか?

『フジコ・ヘミングの時間』
6月16日(土) シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
出演:フジコ・ヘミングほか
監督:小松莊一良
公式サイトURL:fuzjko-movie.com
©2018「フジコ・ヘミングの時間」フィルムパートナーズ

連載情報

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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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