それゆけ!ドーナツ盤万博

“傑作不倫ディスコ歌謡”の岩崎宏美『シンデレラ・ハネムーン』

第10回  岩崎宏美『シンデレラ・ハネムーン』

最近、ますます加熱するアナログ盤ブーム。そしてシングル盤が「ドーナツ盤」でリリースされていた時代=昭和の楽曲に注目する平成世代も増えています。
子供の頃から歌謡曲にどっぷり浸かって育ち、部屋がドーナツ盤で溢れている構成作家・チャッピー加藤(昭和42年生)と、昭和の歌謡曲にインスパイアされた活動で注目のアーティスト・相澤瞬(昭和62年生)が、ターンテーブルでドーナツ盤を聴きながら、昭和の歌謡曲の妖しい魅力について語り合います。

チャ:「新しいレオーネ、パワーステアリングが付いて、とってもやさしいんです。宏美、やさしいから好き!」……またCMネタで始めてみました。こんにちは、チャッピー加藤です。

相澤:え、岩崎宏美さんって、クルマのCMやってたんですか?? こんにちは、相澤瞬です。

チャ:そう。しかも「パワステが付いて、運転に不慣れな女性でもラクラク乗れる」ってのをPRするために、自分で運転してたの。若葉マーク付けて(笑)。

相澤:へー! 貴重ですね、それ。

チャ:でも、バックに流れてる曲が『女優』だったのよ。当時中坊だったけど、ああ、「やさしいから好き!」って演技なのか、と(笑)。

相澤:チャッピーさん、見方がヒネくれすぎ!(笑)

チャ: そういや、瞬くんは演技とかしないの?

相澤: しないですね…!(笑)自分のミュージックビデオとかで若干してることにもなっているかもしれませんが、基本的に顔芸しかやっていないので。(笑)役者さんって凄い!

チャ:てなわけで、ちょっと脱線しましたが、今週もニッポン放送のスタジオから、文字情報だけの「なんちゃって放送」でお送りしまーす。瞬くん、タイトルコールいくよ!

チャ・相澤:(エコー)「それゆけ!ドーナツ盤万博」!!


■阿久悠が課した「卒業試験」

チャ:さて、今週もお題は岩崎宏美で、曲はこちら!

チャ:1978年7月25日発売、岩崎宏美・14枚目のシングル『シンデレラ・ハネムーン』。前回取り上げた『ロマンス』と同じ、阿久悠作詞・筒美京平作曲で、発売日も同じなんだよね。

相澤:あ、ホントだ。『ロマンス』は1975年7月25日発売だから、ちょうど3年後ですね!

チャ:デビュー曲の『二重唱(デュエット)』から、8枚目の『想い出の樹の下で』まで、ずっと阿久&筒美作品が続いたんだけど、そこから作曲家が代わって、これで1年半ぶりに京平さんに戻ったの。

相澤:じゃあ京平さんとしては、がぜん張り切りますよね。「よし、またディスコに戻すゾ」と(笑)。

チャ:そそ(笑)。一方、デビューからずっと面倒見てもらった阿久さんからは、この曲でいったん「卒業」するのよ。その前の『思秋期』『二十才前』で大人の歌手に脱皮できたから、そろそろ自分の手を離れる時期じゃないか……と阿久さんは思ったのかも。

相澤:じゃ、宏美さんにとっては、大きな節目の一曲でもあったわけですか。

チャ:京平さんは「この1年半でどう成長したのか、見せてみて」って感じで書いたんだろうだし、一方、阿久さんは「卒業試験」のつもりだったんじゃないかなー。……さっそく聴いてみよう!

(♪ターンテーブルに乗せて、演奏)

相澤:うわー! やっぱカッコいいなー! 初めて聴いたとき、イントロからいきなり「来た」のを強烈に覚えてますね。

チャ:確かに、ノッケからガツーン! と来るよねー、コレ。

相澤:そしてベースも素晴らしい!……実は僕、この曲で録音への意識が変わって。

チャ:ほぅ。たとえば?

相澤:スネア(ドラム)の音とか、昭和の歌謡曲ってテープで録ってたから、音が「深い」んですね。デジタルで録ると、それがなかなか再現できなくて、どうしたらこの深さが出るのか、メチャクチャこだわって研究したんですよ。

チャ:でも、テープで録るわけにはいかないじゃん? で、どうしたの?

相澤:エンジニアさんと相談して、真空管のプリアンプに通したんですよ。そしたら、凄く理想の音に近づいて。1コ1コ芯のある深い音に。あと、プラグインを使ったりとか……

チャ:へー。そういうのを突き詰めるのって、大事だよね。

相澤:『シンデレラ・ハネムーン』を最初に聴いたのってだいぶ前ですけど、録音に関して、この曲が僕に与えた影響はかなり大きいです。どうしてもこのノリを再現したくて。

チャ:あと、最初聴いて引っ掛かったところってある?

相澤:「爪“など”切る」っていう言い回しもいいですよねー。
“など”って、ナニ?(笑)

チャ:あー、それはまさに「阿久さん語」だなー。音数とか語感もあってそうしたんだと思うけど、すんごくフックがあるじゃん。阿久さんって、そういう細かい言葉のセレクションが絶妙なんだよね。

相澤:このときって、宏美さんはいくつだったんですか?

チャ:んーと、20歳の誕生日を迎える直前だね。

相澤:ちょうどその大人の色気と、阿久さんの詞の世界と、京平さんのさらに進化したディスコサウンドと、この3つがうまくマッチしてるような気がするんですよ。

チャ:うんうん、そうだねー。

相澤:『ロマンス』には、先週言った「16歳がこんなこと言わないでしょ!」という、いい意味での「違和感」がありましたけど、『シンデレラ・ハネムーン』は、それがすでに解消されてますよね。

チャ:大人になった、っちゅうことですな。……あ、そうそう、このレコードって、「音が歪(ひず)んでる」って言われてるんだけど、瞬くん、わかる?

相澤:歪んでる?……あー、それ、初めて聴いたときに気付きました。えーと……(iPhoneで尺見て)頭から2分50秒あたりで、歪んでるというより、音が切れてます。

チャ:あ、やっぱそうなんだ? レコードで聴いてると気付かないんだけどなー。

相澤:あ、たぶんそれは、僕がいつもヘッドフォンで聴いてるからだと思います。はっきり「ブツッ!」って切れてますよ。

チャ:どれどれ、ちょっとヘッドフォンで聴いてみよう……。

(♪ヘッドフォンをつけて、再びターンテーブルで演奏)

チャ:あ、ホントだ。「ブツッ!」っていってる。……てかこれ、ヘッドフォンで聴くと、普通に事故だね。

相澤:そうなんですよ。CDの音源で聴いてそうだったんで、ああ、これはマザーからなんだと。

チャ:発売前にみんなでチェックしてるはずなのに、なんでそのまんま世に出ちゃったのか、不思議だねー。突貫作業だったのかな?

相澤:最新の音源では直ってるようですよ。

チャ:まあ、放送の世界でも似たようなことはあるけどねー。担当ディレクターがド叱られるけど(笑)。

相澤:そのへんのユルさも、昭和ですよねー(笑)。


■「傑作不倫ディスコ歌謡」

チャ:んでもう一回、詞の話に戻るけど……そもそも「シンデレラ・ハネムーン」って何なのよ? と。

相澤:毎日ハネムーンしてるんですよね、この二人(笑)。

チャ:時計に追われてる=いつも逢瀬が短いってことは、互いに忙しいカップル、という解釈もあるけど、そうじゃなくて「不倫」なんだろうなー。それを「シンデレラ・ハネムーン」って言い回しでうっすらほのめかしてるのが、また阿久さんらしいよね。

相澤:「卒業試験」には最適なテーマなのかも(笑)。でも昭和の歌謡曲って、ホントに不倫の曲、多いですよねー。

チャ:それは「不倫はいけないことだ」っていう観念が、今より強かったからじゃないの? いけないことだとわかっているから、陰に隠れて、耐えて忍ぶ……それが歌になるわけよ。今だと、白昼堂々と不倫してるカップルが、普通にいたりするじゃない?

相澤:確かに、世の中わりと不倫が一般的になっちゃうと、わざわざ歌にする必要、なくなりますよね。

チャ:で、阿久さんは、まだ不倫×の時代に、あえてアイドルである岩崎宏美に、こういう「不倫テイスト」の詞を与えたわけですよ。「卒業」のための課題として、あくまでぼやかして。

相澤:確かに、「彼氏がやるせない目をして見てる」「爪を切りながら、重いため息をついている」とか、聴けば聴くほど不倫に思えてくるけど、そうは言い切ってないですもんね。倦怠期のカップルともとれるし、表現が難しい歌だなー。

チャ:「幸せなんだからいいじゃない」って部分とか、不倫って考えると実にしっくりくるんだけど、だとすると、この軽快なディスコサウンドに乗って歌う内容じゃないよなあ(笑)。

相澤:確かに!(笑)

チャ:阿久さんの詞って、そういう背徳的な要素がシレッと仕込んであって、かつヒットさせてるってのがスゴいのよ。そして、詞曲ともにとてつもなく高いハードルを乗り越えていった、岩崎宏美の歌唱力ね。

相澤:当時の歌番組の映像を観たんですけど、番組の尺の関係なのか、すごくテンポアップしてて、でも宏美さん、ちゃんと歌いこなしてるんですよね。なんなの、このポテンシャルの高さは? って思いました。

チャ:結論を申しますと、これぞ作詞家+作曲家+歌手がそれぞれの持てる力を存分に発揮した「ザ・歌謡曲」ですよ。「傑作不倫ディスコ歌謡」と呼ばせていただきます。

相澤:おあとがよろしく……ないようで(笑)。

……次回は、「追悼・西城秀樹スペシャル」、昭和のヒデキナンバーをどんどん聴きながら、二人が熱く語ります。お楽しみに!

相澤瞬 ボーカルのバンド「プラグラムハッチ」の新譜発売イベント開催決定!!
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http://plugramhatchi.com

 

【チャッピー加藤/Chappy Kato】

昭和42年(1967)生まれ。名古屋市出身。歌謡曲をこよなく愛する構成作家。好きな曲を発売当時のドーナツ盤で聴こうとコツコツ買い集めているうちに、いつの間にか部屋が中古レコード店状態に。みんなにも聴いてもらおうと、本業のかたわら、ターンテーブル片手に出張。歌謡DJ活動にも勤しむ。
好きなものは、ドラゴンズ、バカ映画、プリン、つけ麺、キジトラ猫。

【相澤瞬/Shun Aizawa】

昭和62年(1987)生まれ。千葉県出身。懐かしさと新しさを兼ね備えた中毒性のある楽曲を、類い稀なる唄声で届けるシンガーソングライター。どこまでもポップなソロ活動、ニューウェーヴな歌謡曲を奏でる「プラグラムハッチ」、 昭和歌謡曲のカバーバンド「ニュー昭和万博」など幅広く活動。
好きなものは、昭和歌謡、特撮、温泉、うどん、ポメラニアン。

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