鈴木慶一をして「私たちの20年の歴史のなかでたった一度だけ、先を越されたと思い知ったアルバム」と言わしめた葡萄畑の名盤『SLOW MOTION』 【大人のMusic Calendar】

7月21日は、葡萄畑のセカンド・アルバム『SLOW MOTION』の発売記念日にあたる。それにしても、この葡萄畑ほど揺れ幅の大きな音楽活動をしたバンドは、他にいないのではないだろうか。第二のはっぴいえんどから、恐怖のこまわり君まで、まさに歴史的な幅の広さだ。

72年に結成され、74年の2月にポリドール・レコードよりアルバム『葡萄畑』でデビューした。矢吹伸彦画伯による牧歌的なジャケットからも判るように、ザ・バンドやポコを手本にしたようなルーラルな世界観を描き出していた。その朴訥とした日本語のオリジナル曲から、はちみつぱいの好敵手、第二のはっぴいえんどとも呼ばれた。

彼らは小坂忠のバック・バンドをつとめることとなり、池袋のシアター・グリーンで行なわれた「HOBO’S CONCERT」にも出演。この時のライヴは、『1974 HOBO’S CONCERTS V〜ありがとうありがとう〜』としてアルバム化されているのだが、中でも「機関車」における重厚なサウンド・メイクが素晴らしく、日本のグループの中で最もザ・バンドの演奏に近づいたといえる名演奏なのだ。

ここまででも既に、日本のロック・シーンに大きく名前を刻み込んだことになるのだが、もう一波乱あるところが葡萄畑の面白さだ。最初の変調は75年の8月に訪れる。山下たつひこの名作コミック「がきデカ」をモチーフとした「恐怖のこまわり君」(作詞:山上たつひこ)をシングル盤でリリースし、これが深夜放送などで話題となる。続いて、今野雄二が司会をしていたTV番組「おもしろ倶楽部」のために作った「おもしろ倶楽部のテーマ〜恋する男たち」を3枚目のシングルとして発売する。

そして、だめ押しというか、本領発揮というか、これぞ新生・葡萄畑として発表したのが、セカンド・アルバム『SLOW MOTION』であったのだ。ファッションからして既に変わっている。判り易くいえば、『フォー・ユア・プレジャー』以降のブライアン・フェリー風の服装とでも言えばいいのか、初期の素朴なアメリカーナなスタイルから、ファッショナブルなものへと変わっている。

出てくる音も、そのロキシー・ミュージック風であったり、10ccを思わせるポップな要素が仕組まれていたり、ブラック・ミュージックのエレメントを巧みに取り入れたところはスパークスなどにも通じている。そのどれもが、どこかヒネくれていて、お洒落でシニカルな笑いに富んでいる。もっと言ってしまえば、デフ・スクールやセイラーといった英国ヒネくれ系モダーン・ポップ・バンドの系譜に置いても、まるで遜色がない。

なるほど、ムーンライダーズの鈴木慶一をして「私たちの20年の歴史のなかでたった一度だけ、先を越されたと思いしったアルバム、それがこれだ…」と言わしめただけある。この名盤『SLOW MOTION』がリリースされたのが、76年の7月21日であったのだ。

【執筆者】小川真一

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