変わりゆくものと変わらないもの~アニメ『サイボーグ009』音楽50年史 【大人のMusic Calendar】

様々な特殊能力を持った9人のサイボーグの活躍を描いた、石ノ森章太郎による萬画作品、『サイボーグ009』。自らを生み出した組織「ブラックゴースト」との闘いを描いた、いわゆる「誕生編」を皮切りに、長編・中編・短編を織り交ぜながら様々な掲載誌を渡り歩いてきた、石ノ森章太郎にとってライフワークとも言える作品である。1998年に石ノ森氏が死去してもなお、遺された構想ノートを元に長男:小野寺丈氏や石森プロのメンバーらによって完結編の小説化・萬画化が試みられるなど、21世紀になっても創作が続けられている、不変の人気を誇る名作である。その最初の連載が「週刊少年キング」で始まったのが1964年の本日、7月19日のこと。既に52年が経過したことになる。また、萬画と同様、『サイボーグ009』には、各時代にいくつものアニメ化作品が存在し、世代ごとにファン層を形成しているのも面白い。今回は、50年にわたるアニメ『サイボーグ009』の音楽史を紐解いてみたい。

最初のアニメ化作品は連載開始の2年後、1966年7月21日に公開された劇場用映画『サイボーグ009』である。翌1967年には、続編『サイボーグ009 怪獣戦争』も公開されている。制作は、『白蛇伝』(1958)、『西遊記』(1960)、『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)などの文芸長編映画によって日本の商業アニメーションの礎を築いてきた東映動画(現:東映アニメーション)。1963年の『鉄腕アトム』を起点としたテレビアニメ時代の到来に呼応し、そのノウハウをつぎ込んだ中編作品を含めた制作体制への移行を図った東映動画が、第1作目に選んだのが、初の萬画原作作品でもある『サイボーグ009』だった。

主題歌および劇中音楽は小杉太一郎が担当している。伊福部昭門下で純音楽作品も多く発表している小杉だが、主題歌「サイボーグ009」(作詞:漆原昌久、作編曲:小杉太一郎、歌:東京マイスタージンガー)のいかにもヒーローソング然とした切れ味には目を見張るものがある。菊池俊輔が『タイガーマスク』(1969)、『仮面ライダー』(1971)で、渡辺宙明が『人造人間キカイダー』、『マジンガーZ』(ともに1972)で、アニメ・特撮ヒーローソングの典型を創り出すのに先駆け、これほどスリリングで哀愁を帯びた「カッコいい主題歌」を創造していたことに注目したい。『鉄腕アトム』『鉄人28号』『エイトマン』等の「マーチ風主題歌の時代」を終わらせたのは、菊池・渡辺ではなく、小杉による「サイボーグ009」という大発明だったのではないだろうか。実際、この主題歌は絶大な人気を集め、続く「サイボーグ009」のテレビアニメ第1作(1968年)の際にも、引き続きオープニングテーマとして採用されている。

第2の波は1979年。テレビアニメ第2作となる『サイボーグ009』が放送されている。オープニングテーマの作曲は、前番組『宇宙海賊キャプテンハーロック』から引き続き、平尾昌晃が担当。009シリーズ全てに通じる大テーマとも言える「誰がために(たがために)」(作詞:石森章太郎、作曲:平尾昌晃、編曲:すぎやまこういち、歌:成田賢、こおろぎ’73)は、その読み方の難しさや、元GSバンド「ザ・ビーバーズ」のヴォーカル:成田賢のハスキーボイス、名匠アニメーター:金田伊功が描くオープニングアニメーションの見事な出来栄えなども相まって、高学年に向けた大人の雰囲気を湛えていた。「テレビまんがの歌」が「アニメソング」へと脱皮していく70年代末にあって、その象徴のような1曲である。

そして、主題歌の編曲、および劇中音楽は、前年公開の劇場版『科学忍者隊ガッチャマン』のBGMが好評を得ていたすぎやまこういちが担当。『ガッチャマン』と同じく、組曲形式でのLPレコード商品「交響組曲 サイボーグ009」と制作体制を兼ね合わせることで、壮大なオーケストラサウンドによる豪華なBGM音楽を実現している。これもまた劇場版『宇宙戦艦ヤマト』(1977)の大ヒットを受けたアニメブームの中、音楽商品にも強い追い風が吹いていた時代ならでは戦略である。そして、GS、歌謡曲、アニメソングなどを中心とした「歌」の作曲家というイメージが強かったすぎやまだが、『ガッチャマン』『009』を経て、シンフォニック系劇伴作家としての地位を確立。続くテレビアニメ『伝説巨神イデオン』(1980)、劇場アニメ『シリウスの伝説』(1981)等を経て、ゲームソフト『ドラゴンクエスト』(1986)のBGM制作へとつながっていく。現在では、ゲームミュージックの大家として広く知られているが、そのブレイク・スルーは1979年の「交響組曲 サイボーグ009」にあったと言っても過言ではない。

第3の波は、石ノ森章太郎も既に世を去った後の2001年。テレビアニメ第3作となる、『サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER』が放送されている。製作チームにavexが参加している関係で、劇中音楽は小室哲哉が担当し、既に一時代を築いていたユニット:globeが前期主題歌「What’s the justice?」を歌うという布陣が実現。J-POPファン、アニメファンの双方を大いに驚かせた。また、劇中音楽において小室のサポートを務めた多田彰文、松尾早人は、アニメ・ゲーム音楽の新世代の旗手としてこの時期に飛躍を遂げ、今もなお、引く手あまたの人気作曲家となっている。特に松尾は、テレビアニメ前作の音楽担当、すぎやまこういちと組んで数多くのゲームミュージックを手掛けるようになるなど、『009』を巡る不思議な縁も感じさせる。

その後も、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002)等で知られる神山健治監督による、人物描写も含めたフル3D-CG制作による劇場用作品『009 RE:CYBORG』(2012/音楽:川井憲次)や、永井豪原作の『デビルマン』とのまさかのコラボでファンのド肝を抜いた『サイボーグ009 VSデビルマン』(2015/音楽:栗山善親、横関敦、寺田志保)など、様々なスピンオフ作品が今も作られつづけている。あらためてアニメ化50周年の時間の重みとともに、『サイボーグ009』を表現してきた音楽の変容と、その圧倒的な厚みを感じずにはいられない。ただし、望まぬ体に変えられたサイボーグ戦士たちの孤独と葛藤、そして哀しき闘い、という『009』のメインテーマだけは今後も永遠不変であるはずだ。このテーマを音でどう表現するか…… 音楽家たちの挑戦は、これからも続いていくことだろう。

(※石ノ森氏は、漫画を”萬画”と称することを提唱しているので、本文中でもこれに準じています。)

【執筆者】不破了三

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