公害怪獣とサイケデリック・ロックの1971年~映画『ゴジラ対ヘドラ』。最新作『シン・ゴジラ』の封切り前に観ておくべきシリーズ。 【大人のMusic Calendar】

81CTpvOiPnL._SL1447_
ゴジラ対ヘドラ 【60周年記念版】 [Blu-ray]

1970年7月18日、東京都杉並区のとある高校でのこと。校庭で体育の授業を受けていた生徒たちが、突然目やのどの痛み、頭痛などを訴え、40名以上が病院へ運ばれるという事件が発生した。東京都公害研究所の調査により、窒素酸化物が紫外線によって光化学反応を起こし、有毒な物質に変化する、いわゆる「光化学スモッグ」がこの怪現象の原因であることが判明する。汚染された大気が太陽の光によって更なる強い毒に変化するという驚きのメカニズムと、「見えない“公害”が空から降ってくる」という恐怖に、多くの人が強い衝撃を受けたこの日……つまり、今日7月18日は、「光化学スモッグの日」とされている。

この時期、トップクラスの社会的関心事として連日新聞紙面を賑わせていた「公害」。その化身たる公害怪獣が登場する、まさに時流が生み出したような怪獣映画がある。東宝制作による”ゴジラ”シリーズ第11作 『ゴジラ対ヘドラ』である。テレビでの怪獣ブームに比して、人気が下降気味だった劇場用ゴジラシリーズを、斬新な切り口で再生させたいと考えた東宝の田中友幸プロデューサーは、長く助監督の位置にあった坂野義光を監督に抜擢。坂野は、当時最も広く知られた社会悪=「公害」を怪獣化させる着想を、1970年7月18日の、あの光化学スモッグ事件から得たのだという。邦画界全体が斜陽化する中での低予算、わずか5週間という短い製作期間、ゴジラが空を飛ぶ描写をめぐってのプロデューサーとの意見対立……等々の逆風に晒されながらもフィルムは完成し、あの事件からほぼ一年後の1971年7月24日、「東宝チャンピオンまつり」の中の一編として封切られている。

そして『ゴジラ対ヘドラ』といえば、「かえせ!太陽を」(作詞:坂野義光、作曲:眞鍋理一郎、編曲:高田弘、歌:麻里圭子 with ハニー・ナイツ&ムーンドロップス)という強烈なインパクトを放つ主題歌を忘れることができない。1960~70年代の環境問題において、バイブルとさえ言われたレイチェル・カーソンの名著『沈黙の春』にインスパイアされた啓示的な歌詞や、化学物質の名前が次々と列挙される歌い出し、かえせ、かえせと呪詛のように繰り返されるコール&レスポンスなど、作詞も担当している坂野監督のメッセージが徹底的に注入された、一度聞いたら忘れられない主題歌である。メインヴォーカルの麻里圭子は、1969年の人気テレビドラマ『サインはV』の主題歌でも知られ、本編にもヒロイン役で出演している。映画のオープニングでは、麻里の柔らかなヴォーカルが印象的な淡々としたマーチ風のアレンジだが、この曲の真骨頂は、何と言っても劇中でかかるもう一つのヴァージョンのほうにこそある。

ストーリー半ばに登場する退廃的なゴーゴー喫茶。極彩色で幻覚風の映像が投影され、ボディペインティング(風)の麻里が歌い踊る劇中歌ヴァージョンの「かえせ!太陽を」は、ワウ・ギターが荒れ狂う、サイケデリック・ロックへとリアレンジされている。麻里のダンス、ヴォーカル、シュールな映像、バンド演奏の切れ味、無軌道・無関心・無責任な「しらけ世代」の若者像、そして「公害」……と、このシーンからは70年代初頭特有の淀んだ空気がとめどなくあふれ出している。日本特撮史上、最もロックな映画/ロックなシーンと言えるだろう。惜しむらくは、ヘドラ襲来のパニックで演奏が中断してしまうこと。このライヴシーンに魅了された誰しもが全長版を聴きたいと願うはずである。実際、2013年にはガレージバンド:キノコホテルが「かえせ!太陽を」を、この劇中ヴァージョンに準じた雰囲気で見事にカヴァーしていたりもする。(アレンジは異なるものの、麻里圭子自身も2006年にセルフカヴァー版を発表している。)

本多猪四郎や福田純といった名監督の作品が居並ぶ昭和ゴジラ映画の中でひときわ異彩を放ち、なにかと「異色作」「迷作」扱いされることの多い『ゴジラ対ヘドラ』。だが、核開発競争による環境汚染=人類のエゴに対する自然界の怒りをテーマに誕生した初代『ゴジラ』(1954)のメッセージ性を、最も強く意識し、継承しているのは、他ならぬこの作品なのではないか?……と、近年では本作を高く評価する向きも多い。

来週7/29には、ゴジラシリーズ最新作、『シン・ゴジラ』(総監督・脚本・編集:庵野秀明)の封切りが控えている。劇場に足を運ぶ前に、今一度、『ゴジラ対ヘドラ』の肌触りをDVD等で確かめておくのも一興だろう。本作を「迷作」と取るか、ゴジラシリーズ「中興の祖」と取るかによって、『シン・ゴジラ』の見え方も変わってくるのではないだろうか。

【執筆者】不破了三

ミュージックカレンダー