音は想像力を育てる スマホよりコミュニケーションを

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音は想像力を育てる スマホよりコミュニケーションを

【ひとりでも楽しめるスポーツ】

最近、外をランニングしている人を多くみかけるようになりました。気候が安定し、緑が目に鮮やかで、きっと気持ちもよいことでしょう。健康維持やダイエットを目的に「新年度のチャレンジ」としている方も少なくないと思われます。レジャー白書2017(公益財団法人 日本生産性本部 余暇総研)によりますと、ジョギング・マラソン人口は2,020万人。ウォーキング人口は3,010万人おり、場所や相手を選ばない、一人でも楽しめる種目として根強い人気を集めているようです。「一人」での運動は暇なので・・・ということで最近では、Bluetooth、ワイヤレスイヤホンを耳に入れて、好きな音楽を聴きながら走る人が多いように思います。

ジョギング・ランニングしている人はテンポのよい音楽を聴くことでマイペースを維持し、楽しく走ることができます。好きな曲をあと1曲聞くためにもう少し走ろうと、モチベーションが上がるといいます。この点では音楽を聴くことがよい効果をもたらしていると言えるでしょう。「音」には、私たちの能力をプラスに押し上げたり、最適な行動に導く効果があるのではないでしょうか。そしてその原点は想像力にあると私は考えています。今回は「音」と「想像力」の関係を考えます。

音は想像力を育てる スマホよりコミュニケーションを

【音と行動の関係】

私たちは多くの音に囲まれて生活しています。例えば、スーパーでBGMが流れていますが、曲想はいつもテンポのよい楽しい曲です。そうすることで買い物が楽しくなり、スーパーの滞在時間も長くなるからです。買う側が楽しく、いろいろなものを買ってしまうのは、BGMの心理的な働きかけが影響している可能性があります。

また、会話においても言葉は音として耳に入ってきます。ネガティブな響きよりもポジティブな表現の方が受け入れやすいのです。「あーもう時間がない」と焦るより、「まだ、もう少し時間がある」と思った方ががんばれます。「走る」を例にとってみると、「きつい」「つらい」「しんどい」という音声では気持ちが萎えますが、「爽快感」「気楽」「ひとりで出来る」などと言われればやってみようと思います。つまり、私たちは音(この場合「言葉」)が持つ意味から、様々なことを想像して行動に移しているのです。「つらい」という言葉が持つイメージは、自分が体験した苦い思い出を想像させ、尻込みさせてしまうというわけです。
一方、「すごい」「やばい」も会話でよくつかわれますが、前後の脈絡なしでは指していることが良いのか悪いのかわかりにくくなっています。プラス方向でも、マイナス方向でも両方方の意味で使ってしまうからです。この、ある意味便利な言葉は、想像力を働かせなくても通じるため、考える力を閉じ込めていると言えます。このように音と行動は想像力を介して密接にかかわっていると言えるでしょう。


【言葉と声だけの世界ラジオ】

ところで、音楽や言葉のメディアとしてお馴染みなのは「ラジオ」です。私が局のアナウンサーとしてスタートした時、初めて担当したのはラジオの音楽番組でした。そのラジオと言えば、1997年に作られた映画「ラヂオの時間」をご存知でしょうか。深夜、ライブでラジオドラマが放送される舞台裏を三谷幸喜さんがコメディーにしたもので、主演は唐沢寿明さん。ベルリン映画祭にも出品され審査員特別表彰を受けています。映画の中では、熱海の平凡な主婦「りつこ」と漁師「とらぞう」は、ある理由で突如、名前が「メアリー・ジェーン」「マイケル・ピーター」に変わってしまいます。これをきっかけに熱海の設定では不釣り合いと、舞台はシカゴに急展開。二人の恋の物語は、なぜかダムの決壊、主人公のロケットによる地球への帰還など一大スペクタクル巨編になってしまうのです。矛盾とつじつまを合わせる想像の世界が次々と笑いを誘う展開です。

音は想像力を育てる スマホよりコミュニケーションを

また、ラヂオの時間では、波の音や花火の音など「効果音」を作り出す場面もあります。現在では関連サイトからダウンロードしたり、実際の音を高性能マイクで収音する…などと考えてしまいますが、映画では、ざると小豆をゆすることで波の音を、花火は笛と雑誌でラジオ局守衛役の藤村俊二さんがみごとに作り上げました。そしてラジオドラマのラスト、トラックを運転しながらラジオを聞いて涙してみせたのが大俳優渡辺謙さんです。その場しのぎで放送されるラジオドラマに、トラック野郎が大感動し局へお礼にくるオチでした。


【想像力と五官を使った体験】

この映画では一つのラジオドラマを巡ってたくさんの人が関わり、その多様性が想像力の原点になっています。最近ではスマホをみながら一人でランチする光景が当たり前になるなど人との関係が薄くなっていると言われ、友人とのコミュニケーションを通じて、考えたり、意見を戦わせることもしなくなった気がします。わからないことはスマホで調べて、人に尋ねることもありません。検索でさえ想像する必要がありません。「一人で新宿でランチ」と入れれば何かお店が検索されます。以前は「ひとり」「ランチ」「新宿」と言うように共通ワードを「想像」し入力していました。そう考えると、最近は本当に考える場面が少なくなったと実感します。モノがあふれ便利になったこともあり、考える必要さえなくなってきているのかもしれません。こどもの発達について長年研究されているお茶ノ水女子大学の内田伸子名誉教授は2012年のユニセフの講演で「想像力の発達は五官を使った体験の大切さ」と話しています。人との関わりが減り一人の時間が増え、知り合いだけの空間で、スマホの短いメールのやり取りが続く。これは将来的に大きな弊害をもたらすのでは? と想像してしまうのは私だけでしょうか。

ラジオは現在radiko.jpを通じて、インターネット技術でどの局もクリアに受信できるようになりました。音楽もニュースも聞ける上に、様々な情報に出会えます。見ることよりも聞くことで想像を働かせるきっかけをもらえるでしょう。また、多様な番組に接することで、自分以外の意見や考えに触れるチャンスがあります。ジョギングの時はラジオの番組を聞きながら走ることもいいなと思っています。

柿崎元子 メディアリテラシー

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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