本場アメリカで腕を磨いたショーガール・木の実ナナ…本日は古希となる誕生日 【大人のMusic Calendar】

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細川俊之との二人芝居で人気を博した舞台『ショーガール』をはじめ、テレビドラマや映画では女優として活躍し、歌手としても「居酒屋」に代表される数々のヒット曲を持つ木の実ナナは、16歳のときにデビューしてから、芸歴は既に半世紀以上の大ベテラン。国民的映画『男はつらいよ』にマドンナ役で出演を果たしたこともある。テレビでは『あぶない刑事』の理解ある署長役や、昨今では2時間ドラマに欠かせない顔としてお茶の間でもすっかりお馴染みであろう。いつも元気でファンキーな姿を見せる彼女が今年で古希を迎えるとはなかなか信じがたいが、7月11日は木の実ナナこと、本名・池田鞠子の70歳の誕生日。女優業もさることながら、ここでは本来の歌手としての軌跡を辿ってみたい。

 

トランペット奏者の父と、ダンサーの母という環境の下で育った鞠子は、虚弱体質を克服するために5歳で始めたバレエにのめり込み、ダンサーの道を志したという。幼い頃から芸事に馴染んだ結果、中学3年の時に受けた渡辺プロダクションの新人オーディションに優勝したことが、芸能界入りの直接のきっかけとなった。それから間もなく、62年7月にスタートした同社製作の番組『ホイホイ・ミュージック・スクール』の司会に鈴木やすしと共に抜擢される。ザ・ドリフターズにとっても初のレギュラー出演となったオーディション番組は、布施明や三田明を輩出したことでも知られる。そして木の実ナナがキングレコードから歌手デビューしたのは、番組スタートの翌月である62年8月のことだった。

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デビュー曲「東京キカンボ娘」は、売り出しが図られたニューリズム“キカンボ”が採り入れられた入魂の一作で、惜しくもヒットには至らなかったものの、パンチの効いたリズム歌謡としての出来映えは独特の趣があって相当にいい。後に大瀧詠一氏が自身のラジオ番組で紹介して絶賛していた記憶がある。作詞・作曲の菊村紀彦は、音楽家にして仏教哲学者として名を馳せた人物。日本仏教学院長、東京シャンソン協会長など多くの肩書きを持ち、東洋のレオナルド・ダヴィンチと呼ばれる程の天才肌であったという。そんな氏が舞踏家の竹部薫に推薦されてジャズ喫茶から発掘したのが、竹部玲子バレエ研究所に通っていた木の実ナナであり、彼女の名付け親にもなった。デビュー盤「東京キカンボ娘」に載っている菊村によるライナーには、その辺りの経緯が細かく綴られている。

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続けて「子象の行進」「ポッ・ポッ・ポパイ」を出した後、イタリア映画の挿入歌「太陽の下の18才」がスマッシュ・ヒットとなる。なお原曲は「ゴー・カート・ツイスト」といい、同じ曲のカヴァーをビクターの伊藤アイコは「サンライト・ツイスト」、ポリドールの青山ミチは「恋のゴーカート」のタイトルでそれぞれシングル発売した珍しいケースだった。その後も63年から65年にかけて「サミーのマーチ」や「太陽の海」などカヴァー・ポップスを量産した後、66年の「ギッチラ舟唄」からはオリジナルを主とするレパートリーに移行したが、67年に出された久々のカヴァー「ミニ・ミニ・ロック」が歌手として初めての大きなヒットに至る。オリジナルでは、日本テレビの演出家・白井荘也が作曲した「涙ギラギラ」や、橋本淳×筒美京平コンビによる「真赤なブーツ」、鈴木邦彦作曲の「恋は宝」など、GS調の傑作が目白押しで、現在でも中古市場で高い人気を得ている。

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70年に本場のジョー・ビジネスを学ぶために渡米した後、71年に“ナナ”名義で出された「悲しい道」は「リリー・マルレーン」をカヴァーした意欲作で、カップリングの「セクシカ」では初のセクシー路線に挑んで新境地を開拓している。帰国後の73年に劇団四季の『アプローズ』に出演したことがターニング・ポイントとなり、翌74年には『ショーガール』も始まって舞台女優として躍進を見せた。一方で歌手としても「おまえさん」「うぬぼれワルツ」といった大人の歌をスマッシュ・ヒットさせ、82年にはいよいよ最大のヒット作「居酒屋」が生まれる。沢田研二の一連のヒットでも知られる、阿久悠×大野克夫コンビによる軽快なポップス歌謡を五木ひろしと共に歌って大ヒット。カラオケにも欠かせない、デュエット・ソングの大定番となって現在に至る。2012年に平尾昌晃とデュエットした「星空デート」は竹内まりやの作詞による話題作だった。同年に出されたデビュー50周年記念アルパム『SHOW GIRLの時間旅行 ~my favorite songs』は自身のヒット曲のほか、「アカシアの雨がやむとき」「ウナ・セラ・ディ東京」「愛燦燦」など珠玉の歌謡曲カヴァーが収められており一聴をお薦めしたい。昨年には怪我の報もあって心配されたが、日本では稀有なタイプのエンターテイナーにはまだまだ活躍していただかないと困るのだ。

【執筆者】鈴木啓之

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