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8時のGOOD STORY
聞かせ屋。けいたろう
暦の上には春が来ましたが、寒さはまだしばらく続きそうです。
ぽかぽか陽気の春を、心から待ち望んでいる人がいます。
それは「聞かせ屋。けいたろう」こと、坂口慶さん。25歳。
本業は、大田区の保育園の保育士さんです。
坂口さんがなぜそんなに、暖かい春を待っているのか?
それは、路上での絵本の読み聞かせを再開できるからです。
10数冊の絵本をシートの上に並べ、時にはリクエストに応えながら、
相手に向けて絵本を開く。自分は上からのぞき込んで文章を読む。
これが坂口さんの読み聞かせスタイルです。
北区、足立区、豊島区界隈を中心に、100箇所以上で繰り広げてきた
読み聞かせ。あるときは、行きつけの喫茶店や居酒屋で、あるときは、
閉店した商業ビルのシャッターの前で、坂口さんは絵本を開きます。
「子どもだけでなく、大人や若者にも絵本を見てほしい!」
坂口さんの本当の願いは、ここにあります。
母親が押すストレッチャーのようなベッドに寝たきりのまま、
じっと耳を傾けに来てくれた、重い障害を持つ若者がいました。
ある酔っ払いは、物語りをしみじみと聞いたあと、涙声で叫びました。
「お兄さん、キャバクラ行くよりも、ずっと良かったよ!」
上柳 坂口慶さんは、高校生のときバンドを組んで、
プロのミュージシャンを目指していました。
けれども、卒業後に通った音楽スクールで、その夢をあきらめます。
発声とは? 音域を広げるには? うまく聴かせるためには?
そうしたレッスンを受けるうちに、あんなに好きだったはずの音楽が、
ちっとも楽しいものではなくなってしまったからです。
(こりゃあ違うぞ) こう感じた坂口さんは、自分の道を探しながら、
アルバイトに飛び込みました。浅草の「Rocs」ビル、
その中にあった「ウルトラマン倶楽部」が、新しい仕事先でした。
毎日やってくる子どもたちとの触れ合いの中で芽生えたもの、
それは「子どもの心を育てたい!」という思いでした。
1年間の受験勉強の後に入学したのが、宝仙(ほうせん)学園短期大学。
やっと見つけた自分の道は保育士。坂口さんは22歳になっていました。
乳児保育の授業を担当する女性講師、通称「パンダ先生」は、
授業で必ず、一冊の名作絵本を読んでくれました。
普段は遅刻がちの生徒も、この授業だけは真面目に出てくる。
二十歳前後の若者たちが、感動して泣いたり、大笑いしたり、
「絵本て、すごいんだなぁ」 それは初めて知る驚きでした。
行動を起こしたのは、2006年10月14日の夜、10時。
場所は、北千住「ルミネ」のシャッター前でした。
そこはかつて、ミュージシャンを夢見た頃、弾き語りをしていた場所。
地面にシートを広げ、その日、古本屋さんで見つけた絵本と
図書館で借りた絵本を10数冊並べてみたものの、その先が分からない。
「恥ずかしい」「自信がない」「声の張り方は?」「読み方は?」
淋しい試行錯誤を、1時間ほど繰り返したときのことでした。
「何してんの〜?」と近寄ってきた金髪と黒髪の二人の女子高生。
「絵本、読んでるんだよ」「へえ〜、いいこと、やってんじゃん!」
坂口さんは戦争の悲惨さを描いた「かわいそうな ぞう」のお話を
静かに読み始めました。あたりの空気が止まる不思議な時間が流れ、
やがて女の子たちの目から大粒の涙が、ポロポロとこぼれ落ちました。
「あ! これだ!」 (聞かせ屋。けいたろう)誕生の瞬間でした。
平仮名の「けいたろう」で検索すると、今後の予定が分かります。
プロになった友だち、伊藤優一さん、河野文彦さんのギターが
伴奏してくれることもあります。(聞かせ屋。けいたろう)は言います。
「絵本できっと、世の中の何かが変わるはずです」
投稿時間:2008-02-05 13:25:10
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