1242 ニッポン放送
本屋は最高!
塚越孝
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8月26日
「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」(梯久美子著/新潮社刊)
先週に続き、今週も戦争モノです。
私は昭和30年生まれの戦無派世代なんですが、
私よりもっと若い梯久美子さんという方が、
実によく調べて、素晴らしい本を書き上げました。

太平洋戦争最大の激戦地・硫黄島。
アメリカも「5日で落として、さあ本土へ」と思ってたら、
日本軍は36日間にわたって持ちこたえたというんですね。
硫黄島総指揮官の栗林中将という方は、
若い頃、ジャーナリスト志望だったといいます。
それゆえ、玉砕していく各戦地の総指揮官が、
死後どのようにまつり上げられていくのか、
どうやってジャーナリズムが取り上げるのか、
冷静に見極めていたというんですね。

栗林中将は「訣別電報」を家族に打っていました。
中には、辞世の歌が3首添えられていたんですが、
そのうちの1首には、こうありました。
「国の為重きつとめを果し得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき」
この歌から「散るぞ悲しき」という、
本のタイトルになっているんですが、
当時の新聞には「散るぞ悲しき」を
「散るぞ口惜し」と変えて発表されました。
ここに大問題があるわけです。
指揮官は「悲しい」と言いました。
自分の部下を含め、死んでいくわけですから…。
でも“悲しいとは何事だ!”と勝手に、
「悲しい」を口惜しい」に書き換えてしまったわけです。

栗林中将が亡くなった時、奥さんは40歳でした。
中将といえば、今でいえば閣僚クラスの人物。
奥さんも、家庭から出たことがなかったような人です。
それでも戦後は、保険の外交員をやったり、
紡績会社の住み込みの寮母の職を得て、暮らしていきます。
奥方が立派にふるまえたのは、旦那の手紙です。
「軍人だった夫の名を汚さぬよう…」とは言わずに
「世間普通の見栄とか外聞とかに余り屈託せず、
自分独自の立場で信念をもってやって行くことが肝心です」と
手紙には書いていたんですね。
己の死を覚悟の故の文章です。

この本、実はフジテレビの向坂アナウンサーに薦められて
手に取ったんですが、涙なしには読めません。

<著者について>
梯久美子(かけはし・くみこ)
1961(昭和36)年、熊本県生まれ。
北海道大学卒業後、フリーライターとして、
新聞、週刊誌などで数多くのインタビューや取材記事を手がける。
『AERA』誌「現代の肖像」欄では、
レギュラー執筆陣の一人として人物ルポルタージュを執筆。
書籍の編集も手がけ、吉本隆明の「ひきこもれ」「超恋愛論」では
聞き書きを担当した。この本が初の単行本となる。



 
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