1242 ニッポン放送
つかちゃんコラム
塚越孝
塚越孝
column
9月17日

月がとっても蒼いから遠回りして帰えろって唄の文句は、
ほんとにそうだなと思わせる中秋です。
月並みですが、この国に、この時代に生まれ育って幸せだと、
しみじみ、月を愛でながら酒を酌み交わし、思うのです。

たまたま、この芝居を観る日の朝、対日開戦勝利六十周年を祝う式典、
樺太発のニュース映像を観た。
「千島列島は我々のものだ」と、知事とやらが宣っておいででした。

劇団四季の「昭和の歴史三部作」が先月から始まっていて、
来年の一月十五日まで続きます。
その後は京都、名古屋公演が決まっているので、ずうっと続く。
昭和は続くよどこまでも。

続けなくてはと痛切に思います。
私は、ラジオの喋り手ですが、すべての人が語り部となって、
「昭和の歴史」を語り継いでいかなければ。
戦無派世代の私ですら、いや、だからなのか。
ソ連が日本に対して戦争をおっぱじめた、なんて意識は薄かった。

向こうが中立条約を破棄してきて始まったソ日の戦争は、
たったの六日間。
日本は既に、戦う意志も気力も兵もなし、
そこを衝いて満州で強奪、殺戮、あげく五十万人もの日本人を
シベリアに拉致し、抑留者が帰国できたのは、
経済白書が「戦後は、終わった」と宣言した昭和三十一年です。

大型ハリケーン「カトリーナ」後のニューオーリンズの
火事場泥棒よりも醜いですね。
日露戦争の怨みが、そうさせたという説がありますが、
「憎しみを憎しみで返すなら争いはいつまでも続く。
徳をもって怨みに報いよう」と、
私、借り物の言葉ですが、申し上げたい。

これ、実は「ミュージカル李香蘭」のラストシーンで、
彼女を裁く裁判長が、殺せ、殺せ、漢奸を殺せと迫る民衆に
語る科白です。
漢奸ってのは、日本に協力した売国奴。
それは日本がでっちあげた満州国の宣伝映画に主演し、
「支那の夜」なんて唄まで歌った李香蘭だ。

ところが、彼女は、日本人だった。
これは、私も知ってます。
しかし、東洋のマタハリといわれた川島芳子は、中国人だった。
観劇後、昭和三年生まれのお袋に電話したら、
「おまはそんなことも知らないの」と、
李香蘭の山口淑子と池部良の話、彫刻家イサム・ノグチとのことなど、
戦後史をたっぷり語られてしまいました。

狂言回し役の川島芳子が、浜崎、宇多田、チェ・ジウ、
ヨン様目じゃないなんて歌うギャグもあり、
楽しめて、考えさせられるミュージカル、アフターシアターが弾んで、
いい議論ができますからぜひ、誰かとご一緒に。

最後に一つ文句。
裁判長が「被告人、しゅっせいちを述べよ」、
「はい、しゅっせいちは」。これは、頂けない。
言葉の流動化、日本語の液状化、一部辞書も仕方なく認めてるが、
しゅっせいは、戦争に行くことで、しゅっしょうと発音したい。





 
Copyright(c)2004 Nippon Broadcasting System,Inc.All Right Reserved