1242 ニッポン放送
つかちゃんコラム
塚越孝
塚越孝
column
2月18日

通が一割、ファンが二割、まるごと一席聴いたことがない人が
大半という会でした。
「Club IKSPIARI」初の落語会。

ここは一昨年秋、渡辺貞夫で?落とし。
以来、ジャズを中心に、フュージョン、ボサノバ、クラシック、
ポップスと、いわば西洋音楽の館。
そこに黄蘗色の艶やかな着物の美女が三味線片手に俗曲、
そして対談と一席のために、
ふた色の羽織と着物を用意された師匠。
二人とも気合を入れてくれました。

アメリカ的この上ないディズニーランドの玄関口で
初めての和物、古典芸能。
指定ではないので早めにと番組で案内しました。
司会というか漫談というか、わたくしが七時にステージに上がって
開演ですが、四時入りした柳家権太楼師匠は、
「もう、表、並んでるよ」と驚きの顔。
五時にはホワイエと呼ばれる前室に入れます。
外国のホテルのロビーのようです。
三十分後、入場して、アペタイザー、ディナー、スウィーツ、
もちろん、ワインにカクテル、舞浜地ビールまでたのしめます。
催しに合わせてお洒落な和服姿のご婦人も。
いい雰囲気で食事が進む客席をみて、楽屋一同、高揚してきます。

三遊亭小円歌さんは、喋りで笑わせ、撥捌きで唸らせ、
唄で酔わせて踊りも披露。
うなじと足音の美しさにやんやの喝采。
この日は、出演者名を寄席文字で書く「めくり」はあえて避け、
出囃子と同時、ホリゾントに、クラブイクリアリと
目ん玉マークニッポン放送のロゴ。
その間に名前が浮かび上がり、高座で頭を下げた瞬間、消え、
小円歌さんは朱色に、権太楼さんは緑色に、
背景が変わる演出を施しました。

師匠と私の対談に、一息ついた彼女も加わって笑いの渦。
開演前に皿とフォーク類は片付けられていますが、
ドリンクもここまで。
十分間の休憩をはさんで、お後は権太楼たっぷり。
さぁ、なにをやるか。

「井戸の茶碗」でした。
のっけに、私がライブドア事件に触れたからか、
女性客が多かったからか、真っ当な者がいい目をみる
噺にしたようです。
爆笑につぐ爆笑、客も空間も江戸の世界に引き込まれていきます。

帰りしなファンが私に「こんなに笑える噺だったとは」。
そうなんです。
ファンの間では人情噺に、御通家の間では釈ダネ、
つまり、講釈から来た噺に括られています。
なぜ、笑いの量が多くなるのか。
過度の演出? 否。
教わった通り、片言隻句、直していないそうです。

屑屋、浪人、侍と、登場人物は全員、誠実で正直者。
日本語で適当な言葉が見つかりませんが、
それぞれのスタンスの取り方でしょうか?

過去、柳枝、志ん生、志ん朝が、
ちょっと違った味わいを出しました。
今を生きる権太楼が、拝金主義の世の中に、
善人の塊のような三人を息づかせています。
まっこと、ライブハウスに似つかわしい。




 
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