よくもまぁ、こんな下らねぇ映画を創ることができたもんだと
感心、感動しました。
マキノ雅彦監督「寝ずの番」。
GS世代のわたくし、涙が出ました。
原油高騰の折、ガソリンの話をしようというんじゃありません。
グループサウンズの頂点を極めたザ・タイガースのリーダーと
ザ・スパイダーズのメーンボーカルが、エロ唄、春合戦を
繰り広げのおっぴろげなんです。
大スター、ジュリーのバックでグループをまとめたサリーこと
岸部おさみ、俳優転進後は一徳。
私たちの世代が学生時代、コンパで放歌高吟した
♪しょしょ処女じゃない 処女じゃない証拠には…
彼女のおなかはぽんぽこぽんのポン
おいらのせいじゃないぽんぽこぽんのポン。
これを受けて希代のエンターテイナー、堺正章が
♪ぼくらを乗せてシュッポシュッポシュッポッポ
早いぞ早いぞまだ早い ゴムも飛ぶ飛ぶ 汁も飛ぶ
まだだまだだまだだ絶頂だ絶頂だ 楽しいな。
嬉しいったらありゃしない。
ラストシーンがこのメチャクチャさ。
ってことは、もう、のっけから、
「×××」「××××」といった
顔が赤くなるような言葉のオンパレードで、
当然のこと、R−15指定の大人の映画。
エジソンが映画を発明してから十三年後、
日本で初めて映画を撮ったマキノ省三の孫で、
二百六十一本の作品を撮った名監督、マキノ雅弘の甥が雅彦、
俳優の時は津川。
マキノ三代目を襲名して、初メガホン。
主演には、己とタイプの違う名優、実兄の長門裕之を据えた。
笑福亭松鶴がモデルと思われる上方落語の大御所が、
いまわの際で、「そ、そとが見たい」と言った。
総領弟子が、ひと文字、聞き違えたために大騒ぎ。
落語界では有名なエピソードで、一部映画評論家が
久々に抱腹と絶賛しているが、そうじゃない。
爆笑物ではない。
銀座の小さな映画館、ほぼ満員の客は、静かに素直に笑っていた。
人間の可笑しみがじわじわ来て、最後、大きな笑いに包まれる。
初めは、客の戸惑いが勝っていて、徐々に、赤面せずに
「××××」が言えるような、聴いても平気な環境が整えられる。
役者陣が素晴らしい。
弟子に笹野高史、中井貴一、臨終間際の師匠の眼前に立ち、
スカートを捲る弟子の嫁に木村佳乃、
とんでもないことを言い出した亭主に嬉し恥ずかしの表情を見せつつ、
自分のものではないと知るや拗ねる女房の富司純子。
高岡早紀に蛭子能収、梅津栄ら適材適所。
落語を材に採った映画は「脱線落語野郎」など駄作も多いが、
川島雄三監督「幕末太陽傳」、森田芳光監督「のようなもの」と並ぶ
作品として残るだろう。
更にエンドロールに名人の道を歩んでいた故・桂吉朝の名が
落語指導として残った。
さて、新聞や放送は、映画のようにゃいかない。
本紙は、どの部分を伏字にしたのか。
今一度、埋めて御一読いただけたらこの上なき喜び、
三文字でも四文字でも叫びましょう、さ、御一緒に。
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