飯田コージの外はおまかせ！

飯田コージ

1981年12月5日、神奈川県出身。2004年ニッポン放送入社。年齢当てクイズでは必ずプラス20歳上で答えられる。不自然な笑顔が魅力のニッポン放送アナウンサー。

香港競馬通信

12月10日

短距離戦線は伝統的に香港馬が強い領域です。
かつてロードカナロアなど日本馬が制した時代もありましたが、中長距離で苦しい戦いを強いられていてもここだけは譲れない、香港のプライドともいうべきフィールドです。
今年もその香港の底力を見る思いがしました。
昨日も少し書きましたが、ホアオ・モレイラ騎手が香港ヴァーズに続いて連勝。
香港のスプリント界で最も堅実なビートザクロックが大輪の花を咲かせました。
モレイラ騎手も生涯最高と言ったこの勝利、管理するジョン・サイズ調教師にとっては２着にも自厩舎のホットキングプローンが入り、うれし涙をぬぐう展開。
３着には、香港期待の星、単勝１．５倍の一番人気に推されたエセロが入りました。

「本当に、この上なく嬉しいよ！この馬（ビートザクロック）みたいないい馬を１頭ならず２頭乗れて、本当に堪えられないね。この馬は本当に堅実でいい馬。常にベストを尽くしてくれて、その乗り味は一度乗ったら忘れられないよ」

単勝６．５倍の３番人気に推されたビートザクロックを誰もが堅実といいますが、それもそのはず。これまで香港で２３度走って、一度も４着以下に敗れていないのです。まさに、馬主孝行な馬というわけです。
モレイラ騎手は香港ヴァーズに続いてこの日Ｇ１を２勝目。それだけに最終レース後の共同会見でも饒舌に喋ります。

「ゲートが開いて、出はあんまり良くなかったんだ。前の２頭を見ながら行きたかったんだけど、ちょっと立ち遅れたね。でも直線に向いても手応え抜群だったから、これは勝てるかもと思って残り２００ｍでゴーサインを出したんだよ」
そして手にした勝利については、
「きっと年をとっても、生涯この瞬間というものは忘れないだろうね。この馬とは何度もコンビを組んできているんだけど、レーティングの評価ほど走らないってイメージが着いちゃっているのも知れない。今回は出走馬中最高レーティングだったのに、人気がイマイチだったわけで。今日はそうした疑念を吹き飛ばすような勝利で香港のベストスプリンターであることを証明できた。でも、これがこの馬のベストではないと思う。もっともっとこの馬は強くなると思うよ」
と、モレイラ騎手は語りました。

サイズ師は改めて、この馬の堅実さの秘訣を聞かれたときには決まってこう答えます。
「思うに、この馬のキャラクターは勝とうとする意志、ファイティングスピリットにあると思うんだ。名馬の条件とも言えるんだけど、この馬もそれを備えていると思うんだ。それを調教で磨いてきた。レースの日に向けて、この馬は自分で体力をセーブするんだ。これからしばらく、この馬は眠ったように動かなくなると思うよ。そうしてセーブしたエネルギーを今日のような走りで爆発させるんだ。だから普段は冴えない馬のように見えちゃうんだよね」
「レースに出るとこの馬は楽しそうなんだ。ホントさ。賞金を獲得して厩舎に戻ってくるときなんか、ホントに嬉しそうなんだよ。今日も勇敢なレースをしてくれた。道中の位置取りを見ると勝てるとは思えなかったけれど、この馬はゴールまで何が起こるかわからないって信じていたよ」
と、調教師は馬のファイティングスピリットを称えました。

ビートザクロックは２０１６年１１月に沙田競馬場でのデビュー戦を勝利で飾って以来香港で走り続け、現在６歳。Ｇ１勝利は３に伸ばしました。

「ベストパフォーマンスの一つには入るだろうが、これがベストとは思わない。まだまだ上積みがあるはずだよ。それはこの馬自身も知っているんじゃないかな。馬体がまだまだフレッシュだし、この馬の勝利への意思はいまだ変わっていないからね」
と語るのはサイズ師。続けて、
「しかし、ホントに普段はおとなしいんだよねぇ。驚いちゃうよ。ほんの５０ヤード前まで気づかなかったりするんだもの。我々の仕事は馬の周りから雑音を取り除いてあげてレースでベストを尽くせるように集中させることなんだ。それだけに、この勝利の気持ちはなかなか言葉では言い表せないね。弁舌さわやかな演説家ならうまく表現できるんだろうけど」
さらに、
「管理する馬がこうしてウィナーズサークルに帰ってくるってのは嬉しくて感情的になるのが自然なんだけど、そこは謙虚たれ。この言葉を常に意識しているんだ。ここでは本当にたくさん勝ったんだけど、ホームタウンの観衆の前で国際レベルのレースを勝てるってのは非常に意義深いものがあるね」
そして、
「最初に調教試験を行ったときから、この馬は他の馬とはちょっと違うという印象を持っていた。４００ｍごとの時計も良かったし、Ｇ１級のポテンシャルがあることを示していたんだ。そして、それを証明してくれた。性格も、レースに向かう姿勢もね」

サイズ師にとっては３度目の香港国際レース制覇ですが、それを記者団から聞かれると、
「それと、８度の２着ね。これは忘れられないことだよ」
と冗談めかして答えました。

ジョン・ムーア厩舎のエセロは圧倒的人気に推されながら３着に敗れました。が、管理するムーア師は落胆していません。
「この馬はまだ３歳馬だし、たったクビ差しか負けてないからね。だから、今日のレースには満足しているよ。勝てなかったけど、決して負けたわけじゃないから。ザック（・パートン騎手）は残り２００ｍでは大いに期待したと言ってたよ。素晴らしい末脚を見せてくれたんだけど、その時手前を変えたんだ。それで伸びがちょっと止まっちゃったんだね。いずれにせよ、この馬は期待の星であることは間違いないよ」
と、ムーア師は前を向きました。