ニッポンチャレンジドアスリート

スポーツに打ち込み、磨き抜かれた技で、観る者を感動・興奮させるアスリートたち。アスリートの中には、障がいを持ちながら、国際舞台を目指している者たちもいる。そんなアスリートたちの戦い続ける素顔、軌跡、そして、支える人たちにも迫る。

2016.01.11
【松尾清美】佐賀大学医学部准教授。障がい者の生活用機器の開発にあたる。日本に車いすテニスを伝えた伝説のプレーヤーでもある。



■中学時代からテニスを始め、アマチュアプレーヤーとして活躍。だが、宮崎大学3年生のとき思わぬアクシデントから胸随(きょうずい)を損傷し、下半身が完全に麻痺してしまった松尾さん。車いすでスポーツを再開したきっかけは?

「気持ちを切り替えられたきっかけは、九州労災病院の上に、リハビリテーション大学校というのがあって、そこの体育館で北九州足立クラブという車いすバスケットボールチームの選手たちが練習をしていたんですよ」
「その選手たちを見ると、まるで車いすを足のように使って、バスケットコートを動き回って、ボールをパスして、転倒してもパッと起き上がっていたんです。それを見て、何とかなると思ったんです。だから『スポーツをやろう』と。でもまだ、テニスができるとは思っていませんでしたけどね」

■「車いすテニス」という競技があることを知った松尾さんは、当時の勤務先・福岡県飯塚市の総合せき損センターを拠点に、関係者や知人も巻き込んで、競技者を増やそうと精力的に活動。合言葉は「飯塚を、車いすテニスの聖地にしよう!」。追い風も吹いた。

「ちょうどそのとき、地元・麻生セメントの社長が『協力しよう』といってくれました。そのきっかけを作ってくれたのが、飯塚ロータリークラブなんです。会長が「一緒にやろう」といってくれて。最初の頃は、車いすテニスをやろうと思っても、一般のテニスコートコートは『車いすで入ったらコートが傷むから』とずいぶん断られて。かなり探したんですが、そういう飯塚ロータリークラブの協力があって、テニスコートを使えるようになったんです」

■1984年5月、飯塚・大阪・厚木、3つの拠点が手を結び、厚木市で初の国内大会「第1回車いすテニス競技大会」が行われた。総勢36名の選手が参加。飯塚からただ一人参加した松尾さんは、シングルス・ダブルス両方で優勝し、初代王者に輝いた。

「徹夜で仕事を終えて、夜行列車に乗って行きました。幸いにも勝てまして。九州は、シングルス・ダブルス共に私が(タイトルを)獲って帰りましたので、車いすテニスが盛んになり、火が付きました」

■現在、車いすテニスは、テニスの一競技として完全に定着。伝統の4大大会でも、車いすテニス部門が必ず開催されるようになり、男子の国枝慎吾、女子の上地結衣のように、日本にも4大大会でグランドスラムを達成する選手が現れた。日本の車いすテニスの先駆者・松尾は、この快挙をどう見ているのだろう?

「いや、素晴らしいですね。私たちの時代にも、国際大会で決勝まであがる選手が、数人いました。こういう人たちが一生懸命、切磋琢磨して上げていったレベルを、ボーンと上げてくれのが、吉田和子さんがいらっしゃる千葉の研修センター(TTC)。ここの協力というのがすごく大きかったですね」

■千葉県柏市にあるテニス研修センター・TTCの吉田和子理事は、かつてウィンブルドンの女子ダブルスで、日本人初の優勝を飾った伝説のプレーヤー・沢松和子さん。アテネパラリンピック金メダリストの斎田悟司選手、そして国枝慎吾選手もTTCを拠点に練習を積み、プロの車いすテニスプレーヤーとして、世界へと羽ばたいていった。2020年には、東京でパラリンピックが行われるが、第二・第三の斎田、国枝選手を育てるために、いま必要なことは何だろうか?

「テニスをプロとしてやっていこうとしたときに『どこまで打ち込んでいいのか』という問題があります。斉田選手が打ち込み始めたことで、今の国枝選手の打ち込み方にもつながっていきました。賞金の額も増えてきましたけど、今、必要なのは、選手たちを支える体制というのを、もっとともっと作ること。日本の国枝選手・斉田選手のがんばりで今の状況にはなっているんですけれど。必要な勝つことと、企業の協力を育てること。協賛してもらったり、あるいはノンプロのように競技に打ち込める、そういう環境作りでしょうかね。他のスポーツも全部そうですけど、競技スポーツはある一定の年齢の範囲のものです。ですからその、後のことを考えて作っていく必要があると思います」

■松尾さんに、これからの目標を訊いてみた。

「WHOが出している、ICF(国際生活機能分類)によると『体の障がいが障がいではなくて、環境が整っていないのが障がい』なんです。環境を整っていれば、私のような対麻痺(両下肢のみの運動麻痺)でも、どんなに重度の障がいがあっても、どんどん社会に出て、働いて、納税者になれるんです」
「今から10年後は団塊の世代が高齢者になります。そのみなさんたちが、車いすとか福祉器機を、テクニカルエイドを知っていれば、できないと思っていたことができるようになるんですね。そうすれば社会参加しやすくなる。そして寝たきりをを少なくする。ここのところを伝えていくべきだな、とぼくは思っています」

■さらに、松尾さんの夢は広がっていく。

「障がいを持ったお子さんたちが、スポーツを通じて社会参加していけるような環境を作ろうとしています。スポーツに接していると、自分の障がいを考えるよりは、この障がいで、どう社会に適応していくかを考えはじめますので、小さい時にそれを培っていくことです。大人になったら必ず納税者ですから」
「寝たきりでも仕方ないなという重度の障がいがあっても、動き出せる道具を、今作っているんです。その子たちは、自分で動くという自立心を養ったら、街に買い物に行く人になっていきます。そういう環境を、システムを、作っていきたいですね」

※放送内容は、上のYouTubeの再生ボタンを押すとお聴きになれます。

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「ニッポンチャレンジドアスリート」の放送時間が変わります!...

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次のゲスト予定

10月23日(月)〜27日(金)、10月30日(月)〜11月2日(木)の2週間は、パラ馬術・宮路満英(みやじ・みつひで)選手と、コーラーの裕美子(ゆみこ)さんが夫婦で登場します。
満英選手は、1957年、鹿児島県生まれの59歳。10月29日に還暦を迎えます。JRAの調教助手として、海外のG1レースを勝ったシーキングザパールなど、数々の名馬の調教に携わりましたが、2005年、仕事中に脳卒中で倒れ、右半身まひなど重い後遺症が残りました。2007年にJRAを退職。その後パラ馬術を始めます。
満英選手は記憶障がいがあり、指定されたコースがよく覚えられないため、妻・裕美子さんが「コーラー」と呼ばれるガイド役を務め、声でコースを指示します。夫婦二人三脚で、昨年のリオパラリンピックにも出場。3年後の東京パラリンピックを目指しています。
インタビューも、満英選手の記憶を補うため夫婦一緒に受けられることが多く、今回は特別にお二人での出演となりました。リハビリを経て再び馬に乗ったときの喜び、夫婦で戦うことになった経緯、馬とのコミュニケーション、リオでの思い出、夫婦の絆、これからの夢…など、まるで夫婦漫才を聞いているような二人のお話を2週にわたってお楽しみください。

*11/3(金)は、祝日のため放送はお休みです。