ニッポンチャレンジドアスリート

スポーツに打ち込み、磨き抜かれた技で、観る者を感動・興奮させるアスリートたち。アスリートの中には、障がいを持ちながら、国際舞台を目指している者たちもいる。そんなアスリートたちの戦い続ける素顔、軌跡、そして、支える人たちにも迫る。

2015.12.08
【小山田雅人】障がい者ゴルフの世界大会で2連覇を達成。2013年、PGAのティーチングプロ資格を取得した「片手のプロゴルファー」



■2歳のとき、事故で右腕を失った小山田選手。子供の頃は野球少年で、小学校では四番を打ち、中学校ではエースとして活躍、チームを県大会準優勝に導いた。高校でも甲子園を目指して野球部に入部したが、監督がプレーを見ることなく「マネージャーをやってくれないか」と言ったことにショックを受け、最終的に高校を中退。その後、別な高校に入り直した小山田選手は、一人でできるスポーツを探すことにした。そこで出逢ったのが、ゴルフだった。

「学生時代に野球で、私がピッチャーをやっていると、相手チームの監督から『遠慮して試合をしなかった』とか『こういう作戦を出さなかった』と言われてしまうんですね。個人競技、しかもゴルフになると、戦っているのは相手じゃなくてコースです。スコアがいい方が勝ちなので、相手が私のことをかわいそうだなと思っても、そんなのは、まったく理由にならなくて、スコアさえよければ勝ちですから。このスポーツってすごくいいな、と思ってゴルフを一所懸命やるようになったんです」

■高校卒業後、栃木県の職員として働きながら、仕事が終わるとゴルフ練習場に通い、トレーニングを重ねた小山田選手。義手で健常者の大会にも出場し、好成績を収めていった。そのインパクトは大きかった。

「もともと、障がい者ゴルフっていう競技があるのを知らなかったんですね。だから何の疑問もなく、普通の大会に出場し始めたんです。私が住んでいる栃木県では、決勝に行けるのは120人です。その一次予選、二次予選をやっているうちに、だんだん噂になっていくんですね。決勝大会のときは、ティーグラウンド(各ホールの出発区域)にみんな集まってきました」
「『なんでウチの組だけこんなに人がいるの?』『お前のせいだよ』。そこで初めて『片手でやるのは、本当に大変なことなんだ』って分かりました」

■「義手のトップアマ」としてその名を知られるようになった小山田選手は、35歳のとき、ついに「ハンディ0」に。その飽くなきチャレンジャー精神で、海外の大会にも挑戦。2005年、アメリカ切断者ゴルフ協会が主催する大会に初めて出場し、ヒジ下切断の部で見事優勝を果たした。

「『障がい者の世界大会』という位置付けをされていたんですけど、2005年にアメリカの切断者の大会に初めて出ました。腕の切断部門で優勝して、総合では3位になったんですね。障がいの手・足関わらず、すべての参加者の中での3位です」
「やっぱりゴルフって、両手でやらないとクラブをちゃんと振れないので、一番有利なのは足の障がいのかた。その次に手の障がい。そういうふうにカテゴリを分けているんです。このときは手の障がい部門で優勝したんですけど、2位の人と3日間戦っていって23打差があって。私が競っていたのは足の障がいの人たちでした。私が参加するまでは、手の障がいの人っていうのは上位に来るってことはなかったみたいです。なので、それからは障がい別ではなく、総合で上位者だけが回るっていう話になったんです」

■大会ルールも変えさせた小山田選手は、2015年9月にアメリカのアラバマ州で開催された「全米切断者ゴルフ選手権」で、世界のトッププレーヤーたちを相手に、ヒジ下切断部門で優勝し、3連覇を達成。総合でも7位に入賞したが、実はその陰で2005年から病魔と闘っていた。「脳腫瘍」である。

「公務員時代、仕事中頭が30秒ほど痛くなったんです。私の父親は脳梗塞をやっていて、母親が心筋梗塞をやっています。もしかしたら頭の血管のどこか詰まってしまったのかな、と思って、翌日病院に行って『検査をしてください、もしかしたら…』と先生に話したら、結局『血管は詰まっていないけれど、脳腫瘍があるよ』と。両親の病気のことをずっと思っていたことが、自分の腫瘍を早く見つけられることになって幸いでした」

■手術を受け、左側頭葉の7割ほどを失った小山田選手は、術後のダメージも大きく、一部記憶を失ったり、食欲をなくして20キロ痩せ、3カ月間はゴルフを許可されなかった。しかし、妻の朗子夫人の助けもあって復活。現在も脳腫瘍と闘っている小山田選手だが、実は2014年、さらにもう一つ別な病魔に冒された…「急性心筋梗塞」。

「救急車で病院に運ばれて、緊急手術を受けました。『あと1時間遅かったら死んでた』って言われたとき、本当に助かってよかったなと。そのときもずっと妻が横にいたので、そんな話をされて『ごめんね、また病気になっちゃって』と言ったら『いいんだよ』と答えてくれたのが、また支えになりました」

■病気を克服した小山田選手は、かねてからの夢「プロゴルファー」に挑戦しようと、25年間務めた栃木県の職員を辞めた。朗子夫人の反応は?

「もちろん妻も、猛反対しました。ましてや子どもが生まれて、まだ小さい時期ですから『なぜこういう時期に辞めるって言うの?』と。妻を説得するのに1年かかりました。ずっとしつこく妻を説得して『いくら言ってもこの人は考え方を変えないな』と妻が折れてくれて。妻も仕事をしていますから『じゃあ、私が頑張るわ。支えになるから、やるだけやってみたらいいじゃない』という話になったんです」
「最終的にどうしてもプロになりたいって思ったのは、いろいろ調べてみても、脳腫瘍の生存率っていうのは普通の人よりかなり低いので『このまま公務員を続けていたとしても、退職までは多分生きてないな』と。ならば、娘の記憶に残るようにしたい…それなら今までにいない『片手のプロゴルファー』になってやろうと」

■公務員を辞めた小山田選手は、練習に専念できる環境を求め、2012年に、医療・介護関連の事業を手掛ける会社・富士産業に移った。アマチュア相手にレッスンを行う「ティーチングプロ」に合格、晴れて正式なプロゴルファーとなった小山田選手は、現在DGA(日本障害者ゴルフ協会)の理事を務め、障がい者ゴルフの普及にも精力的に取り組んでいる。小山田選手にとって、ゴルフの魅力とは?

「自分が生きている証でもありますし、娘の記憶に残すために一所懸命やれるスポーツだと今は思っているんです。また、改めて目標をどんどん作れるスポーツでもあるので『プロになったら次は何、次は何…』と、どんどん新しい目標を立てていきたいですね」

※放送内容は、上のYouTubeの再生ボタンを押すとお聴きになれます。


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「ニッポンチャレンジドアスリート」の放送時間が変わります!...

2015.03.27

次のゲスト予定

10月23日(月)〜27日(金)、10月30日(月)〜11月2日(木)の2週間は、パラ馬術・宮路満英(みやじ・みつひで)選手と、コーラーの裕美子(ゆみこ)さんが夫婦で登場します。
満英選手は、1957年、鹿児島県生まれの59歳。10月29日に還暦を迎えます。JRAの調教助手として、海外のG1レースを勝ったシーキングザパールなど、数々の名馬の調教に携わりましたが、2005年、仕事中に脳卒中で倒れ、右半身まひなど重い後遺症が残りました。2007年にJRAを退職。その後パラ馬術を始めます。
満英選手は記憶障がいがあり、指定されたコースがよく覚えられないため、妻・裕美子さんが「コーラー」と呼ばれるガイド役を務め、声でコースを指示します。夫婦二人三脚で、昨年のリオパラリンピックにも出場。3年後の東京パラリンピックを目指しています。
インタビューも、満英選手の記憶を補うため夫婦一緒に受けられることが多く、今回は特別にお二人での出演となりました。リハビリを経て再び馬に乗ったときの喜び、夫婦で戦うことになった経緯、馬とのコミュニケーション、リオでの思い出、夫婦の絆、これからの夢…など、まるで夫婦漫才を聞いているような二人のお話を2週にわたってお楽しみください。

*11/3(金)は、祝日のため放送はお休みです。