ニッポンチャレンジドアスリート

スポーツに打ち込み、磨き抜かれた技で、観る者を感動・興奮させるアスリートたち。アスリートの中には、障がいを持ちながら、国際舞台を目指している者たちもいる。そんなアスリートたちの戦い続ける素顔、軌跡、そして、支える人たちにも迫る。

2015.07.12
【秦由加子】パラ水泳から、一昨年パラトライアスロンに転向。パラリンピック正式種目となるリオ大会ではメダル候補として注目の存在。



■子供の頃から水泳をやっていた秦選手。だが骨肉腫のため、13歳のとき右脚の大腿部から先を切断。その後しばらくスポーツをすることを避けていたが、2008年、地元の障がい者競泳チーム・千葉ミラクルズを立ち上げるという話をネットで見付け加入。24歳で水泳を再開した。秦選手は持ち前の才能を発揮。パラ水泳の選手として2010年、広州アジアパラ競技大会にも出場した。

「水泳ができるようになったということは、私にとって夢のようなことで、大会に出るようになるとものすごく楽しくて、いろんな方との出逢いもあり、コーチにも恵まれました。『もっと速くなりたいんです』とお願いして、仕事終わりで夜に集中して練習する環境ができました」

■パラ競泳選手として活躍していた秦は、おととしからパラトライアスロンに転向。通常のトライアスロン同様、「スイム→バイク(自転車)→ラン」の3つを1人でこなしゴールを目指す。スイム区間は750m、バイク区間は20Km。ラン区間は5Kmとオリンピックの半分の距離だが、過酷さは同じ。来年のリオ大会からパラリンピックの正式種目に採用されるが、このハードな競技に挑戦してみようと思った理由は?

「仕事の前に朝練をしようと、現在所属する稲毛インターナショナルスイミングクラブに入ったら、そこにトライアスロンのオリンピック選手や、一般のトライアスリートがたくさん在籍していて、その練習を見ていて、ずっと楽しそうなスポーツだなと思っていたんです」
「そんなとき、ある会員さんから、アメリカの義足のトライアスリートの写真を見せられ、その中に女性の選手もいたんです。本当に恰好良くて、明確なイメージがそのときにできたのが、私も始めようと思ったきっかけです」
 
■だが秦選手はそれまで陸上の経験もなく、義足で走ったことは一度もなかった。どんなトレーニングを積んだのだろう?

「当初は痛みとの戦いで、1年間ぐらいは、1キロ走ったら傷ができて義足の中が血だらけになるという状況でした」
「陸上をやりたいという目的だったら、何て辛い競技だとやめていたと思います。でも私はトライアスロンをやりたい、と思っていたから、陸上をもっともっと頑張ろう、と続けられたんだと思います」

■バイクもパラサイクリングの合宿に参加して乗り方を教えてもらい、いよいよ実戦。初の大会はおととし千葉・幕張で行われた一般のトライアスロン大会。順位こそ最下位だったが、たくさんの人に支えられ、最後は拍手で迎えられて完走。まさにこれがトライアスリートとしての第一歩だった。その後、秦選手は国内大会のパラ部門で上位入賞、優勝を重ねていき、今年3月、オーストラリアで初の海外レースに出場。この大会では嬉しい出逢いもあった。

「私がパラトライアスロンを始めたいと思ったきっかけでもある、アメリカの女性選手たちもそこに出場していたんです。直接逢えて、一つ夢が叶いました」
「すぐに彼女たちの所に行って感激を伝えると、向こうも『自分のことを知っている』と言ってくれて、ビックリしました。お互い『やっと逢えたね』という感じでした」

■この大会、スイムで世界の強豪たちを引き離した秦選手は、次のバイクでもトップの座をキープ。しかし最後のランで3人に追い抜かれ、結果は4位に終わった。

「バイク区間までトップで行けたのは嬉しかったんですが、ランのとき、後ろから外国選手が追い上げて来る気配は感じていました」
「抜かされる瞬間も、悔しいんですけど、相手の息づかいが聞こえて来て、その背中がどんどん遠ざかっていくというのは、本当に夢の中にいるような感じで、『ああ、来てよかった』と幸せにひたってました」
「でも観客席からメダルをもらっている彼女たちを見ていたら、やっぱり自分もそこに立ちたいな、と改めて感じました」

■海外で貴重な経験を積んだ秦選手は5月、リオへのステップとなる国際大会、「世界トライアスロンシリーズ・横浜大会」に出場。昨年優勝を飾った大会だが、今年は世界ランク上位のライバルが海外から参加。総合タイム1時間28分57秒で海外のライバルを抑え優勝。課題でもあった最後のラン・5キロは自己ベストの31分24秒で駆け抜けた。

「それまで参加した国内大会はパラの出場者が少なく、バトルの経験があまりなかったんですが、今回相手の手がゴーグルにぶつかって外れそうになったり、水を飲んだり『ああ、これがトライアスロンなんだ』という実感がありました」
「去年と同じコースを走って、思ったよりすごくいいタイムで、自分としては練習の成果が出たなと。今回ランは31分台でしたが、海外の選手は27分台で走っているので、まだまだランは強化が必要だなと思っています」

■いよいよ来年に迫ったリオパラリンピック。リオ行きの切符をつかむには、今年7月1日から来年6月30日までの1年間に開催される対象レースに出てポイントを獲得していかなければならない。海外遠征も何度かしなければならないが、普段は一般の企業で働いている秦選手。競技との両立は?

「普通にOLで、経理をやっています。これまでは有給休暇の範囲内で試合に出たり、合宿に行っていたんですが、海外でポイントを取っていかなければいけないので、いま会社に相談中です」
「どうしても休まなければいけないとき、職場の仲間が応援してくださるのは本当にありがたいことだと思っています」

■そこまで競技にのめりこむ秦選手に、トライアスロンの魅力を聞いてみた。

「取材で必ず聞かれるので、完走したときの達成感、とかいろいろ答えてきましたが、どう答えても『いや〜、でもキツイですよね?何でやってるんですか?』と毎回言われてしまうので(笑)」
「魅力を言葉で伝えるよりも、トライアスロンは実際にやってみるとすごく楽しいスポーツなんです。皆さんも是非やってみて下さい!」

※放送内容は、上のYouTubeの再生ボタンを押すとお聴きになれます。


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次のゲスト予定

10月23日(月)〜27日(金)、10月30日(月)〜11月2日(木)の2週間は、パラ馬術・宮路満英(みやじ・みつひで)選手と、コーラーの裕美子(ゆみこ)さんが夫婦で登場します。
満英選手は、1957年、鹿児島県生まれの59歳。10月29日に還暦を迎えます。JRAの調教助手として、海外のG1レースを勝ったシーキングザパールなど、数々の名馬の調教に携わりましたが、2005年、仕事中に脳卒中で倒れ、右半身まひなど重い後遺症が残りました。2007年にJRAを退職。その後パラ馬術を始めます。
満英選手は記憶障がいがあり、指定されたコースがよく覚えられないため、妻・裕美子さんが「コーラー」と呼ばれるガイド役を務め、声でコースを指示します。夫婦二人三脚で、昨年のリオパラリンピックにも出場。3年後の東京パラリンピックを目指しています。
インタビューも、満英選手の記憶を補うため夫婦一緒に受けられることが多く、今回は特別にお二人での出演となりました。リハビリを経て再び馬に乗ったときの喜び、夫婦で戦うことになった経緯、馬とのコミュニケーション、リオでの思い出、夫婦の絆、これからの夢…など、まるで夫婦漫才を聞いているような二人のお話を2週にわたってお楽しみください。

*11/3(金)は、祝日のため放送はお休みです。